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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

救世主はいずこ

橋本敦

 

 蜂蜜は私にとってちょっとした贅沢品である。というのも大学に進学して独り暮らしを始めてしまったものだから、なかなかそこに予算を割けないのである。とはいえ毎日、喉から手が出るほど欲しいというわけではない。そのため、存在を忘れかけていたこともあった。しかし、ある時、不意に欲求は湧きおこってしまったのである。私は不覚にもホットケーキミックスを買ってしまった。スーパーのホットケーキミックスのコーナーの前で一人立ち尽くし、買おうか、買うまいか。予算をどうにか抑えたい私にとってはホットケーキミックスというものは買うべきではないのである。結局買ってしまったのだけれども。しかも粉だけという失態である。ホットケーキといえば、いわずもがな、蜂蜜が必要なのである。いわずもがなというよりもパッケージにもなっている。ミックスを買ってしまった直後の私は、蜂蜜がなくても全然おいしく食べられるぞ、と自分に言い聞かせ、帰った。そして遂に封を開ける時が来た。分量通りに材料を混ぜ、フライパンを濡れ布巾の上で“シュッ…”とさせる。生地を広げ、ひっくり返し、出来上がり。お皿に載せて、ここから何をするでもなく、食卓へ持っていった。恐らくホットケーキもびっくりであろう。「今回は蜂蜜さんいないんですか?」と湯気の上がるホットケーキの無言の訴えを聞かないふりをした。何もかけず、つけずで食べてみた。もちろん、美味しくないわけではないのである。しかし、やはりあの方が恋しくなる。そう、蜂蜜さんである。実はスーパーでホットケーキミックスをかごに入れた後、蜂蜜コーナーでも悩んだ。そして結局買わなかったのである。蜂蜜からしたら大ブーイングであろう。「お前かごにホットケーキミックス入れてるだろ!」と声を荒げるはちみつもいたかもしれない。ただただ陳列棚の後ろの方に行って泣き崩れた蜂蜜もいたかもしれない。「私の存在価値って…。」といった調子である。
 その時の情景を思い浮かべながら、無味のホットケーキを口に入れていく。誰か勇気のある蜂蜜がスーパーから抜け出して、救世主のように現れてくれないものか。と、玄関を見る。どう考えてもいないのでもう一口ホットケーキをほおばる。また一口、また一口、と食べ進め、最後の一口、もう一度玄関を見る。いない。結局、救世主は現れず、食べ終えてしまった。

 

(完)

 

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