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蜂蜜エッセイ応募作品

家族の蜜月

鈴木香織

 

 家族旅行で千葉の海沿いに向かう道中、車の窓からはちみつ専門店を見つけた。父がお手洗いに行きたいというので、母と姉と私とはちみつ専門店の中を見て待つことになった。
 中は思いのほか広く、小さめのスーパーくらいのフロアは人であふれかえっている。10種類以上のはちみつを食べ比べできるゾーン、はちみつのお酒を試飲できるゾーン、ハチミツかけ放題のバニラアイス売り場。「天国みたいだねえ」と母親がつぶやく。少し並んでいたお手洗いから父が帰ってくる頃には、母娘3人ともお酒の試飲しすぎでほんのり赤くなった頬に、蜂蜜でどろどろに浸したアイスをせっせと運んでいた。「いいなあ。蜂蜜のお酒飲みたかったな」と車を運転する父がぼやくので、今日泊まるホテルで飲む用に蜂蜜のワインを買って帰ることした。
 ほくほくしながら車に返って、はちみつ専門店で撮った家族の写真を見返していると、ふと「2、3年前まではこんな風に家族で過ごすなんて想像もつかなかったな」とこれまでのことを思い出す。私の両親はかつて、すこぶる仲が悪かった。ものごごろがついて一番最初の記憶は、両親が派手に言い争っているのを止めたくて泣きだすシーンだ。自分が小学生~高校生の間を通して、両親が会話しているところを片手で数えられるくらいしか見たことがなかったように思う。リビングでテレビを見ながら家族団らん…なんてことはなく、ご飯を終えると全員が各々の部屋に戻って籠るような生活だった。もちろん家族旅行なんて一度もない。両親のことはそれぞれ尊敬しているし大好きだけれど、その分そんな環境にいるのが辛く、大学入学と同時に家を出た。
 子供が独り立ちしたら本当に離婚するのでは、と心配していた我々姉妹をよそに、数年前から母と父が以前より話すようになった。金銭的にも時間的にも余裕が出たからか、明確なきっかけや理由はわからないが、とにかく私は二人が仲良く暮らしてくれていることが何より嬉しい。
 ホテルで夕飯を食べた後、部屋に戻って先ほど買った蜂蜜のワインを飲むと、甘さとアルコールで脳がとける感じがした。父はこのお酒を飲みたがっていたわりに「甘いすぎるなー」と口に合っていなそうで、皆で笑ってしまった。そんな1コマも、家族で仲良く、というのが板についていなくてどこかぎこちない。それでも20数年目にしてようやく訪れた我々4人の蜜月を大事に過ごそうと思った。

 

(完)

 

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