Masumi_T
おじいちゃんの家のキッチンの棚には、大きな蜂蜜の瓶がいつでもどんと置かれていた。
スプーンでそのまま食べたり、淹れたてのコーヒーに垂らしていたのはおじいちゃん。
おばあちゃん秘伝の美容術では、ニキビの跡や乾燥した手の甲に少量の蜂蜜を塗る。喉が荒れた時は大きめのスプーンにひとすくい、痛むところに流し込めば良くなると教わった。
小さい頃から、何かと蜂蜜の活躍する環境で育った記憶である。
その甲斐あってか結婚してからは、特大サイズのアカシア産蜂蜜をキッチンに常備するようになった。
そのぽってりとした柔らかいプラスチック容器が空になりかけると、早く買いに行かねばと焦ってしまう。
肌に塗ることは無くなったが、専ら痛む喉に塗ってみたり、調味料として使うことが多い。
気づけば、蜂蜜は私の生活の一部になっていた。
食パンに、ましかくのスライスチーズ。バターの代わりに蜂蜜を塗ってトースターを通せば、朝の定番メニューのできあがり。
メープルシロップの代わりに使ったり、お米を炊く前に少量加えるだけで、甘さが増してごはんの美味しさがひと味違う。
我が家のから揚げは、今も昔も蜂蜜入り。家族や友人が遊びに来ると振る舞うことも多く、隠し味を聞かれれば、秘伝でもないので蜂蜜入りと教える。
砂糖の代わりに加えることで、味にコクが出るのだ。照りが欲しい炒め物にも合うし、何より醤油との相性が抜群である。
琥珀色に輝く自然界のとろりとした宝石は、どんな料理にも合ってしまう。
友人たちと料理の話をしていた時のこと。
「料理には蜂蜜」と話すと皆に驚かれ、「あまり買ったことがないし、調味料として使ったことがない」と言う。これには私の方が驚いてしまった。
当たり前であった蜂蜜のある生活は、私の中の習慣なだけであって、どの家庭でも常備しているわけではないことに気づかされた。世の中は広かった。
年を重ねるにつれ、ただの風邪も長引くようになってきた。そんな時は、ひとさじのマヌカハニーをほおばる。
お洒落なステッカーでラッピングされ、瓶の形も蓋も、何をとっても可愛らしい。体調が悪いのに気分が上がってしまう。
味は、うん、薬っぽい。とっても効きそう。
おばあちゃんになっても、おばあちゃんの教えの通り、風邪の時はひとさじ頂くのが習慣になるだろう。
蜂蜜と私のべっとりとした関係。
これからも私は、目に見えない蜂たちと養蜂場の人々との活躍によって生み出される、ピュアな輝きを放つ自然界からの贈り物に、頼り切って暮らすことになりそうだ。
淹れたての紅茶に特別な一杯を垂らし、一時の幸せを感じたところで、この執筆の手を止めることにした。
(完)
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