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蜂蜜エッセイ応募作品

美少女とレモンの蜂蜜漬け

カラックス

 

 自分が小学生のころ、父がどこかにふらりと蒸発した。それ以降、ほぼ母子家庭のような環境だった我が家には、経済的余裕がまったくなかった。「贅沢は敵!」を合言葉に、母と私と弟の3人は、切り詰めた生活を送っていた。そんな我が家において蜂蜜は、ステーキやうなぎ、寿司などと並ぶ幻の食べ物だった……。

 そうした環境下で、私はなんとか高校へと進学し、サッカー部に入部した。サッカー部には、学校一の美少女と評判の2年生のTさんがマネージャーとして在籍していた。Tさんを一目見た瞬間、あまりの美しさと透明感に頭がクラクラして倒れそうになったのを覚えている。容姿端麗なだけではなく性格も抜群。雨の日も猛暑の日も、部員たちを献身的にサポートしてくれた。

 恋をした、キミに。

 そして、試合の際には必ず、大きなタッパーに、レモンの蜂蜜漬けを作ってきてくれた。黄金色に輝く蜂蜜の海にレモンスライスたちがキラキラと輝いている。その輝きは、「神々しい」という表現がぴったりだった。

 恋をした、レモンの蜂蜜漬けに。

 ハーフタイムになると、Tさんは天使のような笑顔とともに、それを選手たちに差し入れてくれるのだ。その光景は、まさしく「天国」。

 しかし、天国を体感できるのは、試合に出ている選手だけ。その他の部員たちは、蜂蜜とレモンの甘く爽やかな香りを、鼻をヒクヒクさせて嗅ぐことと、天使の笑顔を少し遠目から拝むことしかできない。私にとって、それは地獄を意味した。「地獄から抜け出し天国にいかねば!」。そう心に誓い、死に物狂いで練習した。そして、1年生の秋、ついに、レギュラーの座を勝ち取ったのだ。

 スタメンとしての初試合。前半終了の笛が鳴った瞬間、私はレモンの蜂蜜漬けの入った大きなタッパーを持ったベンチのTさんの元へとダッシュした。そして、天使の笑顔に見守られながら、手づかみでレモンの蜂蜜漬けをわしゃわしゃと貪った。蜂蜜の上品な甘みとレモンの爽やかな酸味が抜群のハーモニーを奏で、レモンの皮の苦味と滴る汗の塩味が、絶妙のアクセントになっていた。

 「サイコー……」、私はその瞬間、確実に天国にいた。

 50歳を過ぎた今でも、数年に一度、高校サッカー部の同窓会がある。その際に、私に対して、「〇〇くん、レモンの蜂蜜漬け、大好きだったよね」と、美少女から美魔女へと変身したTさんが、相変わらずの素敵な笑顔で毎回声をかけてくれる。「Tさんのこともね」などとサラリと言うこともできない小心な私は、「はい、今でもレモンの蜂蜜漬け、大好きです」と少々照れながら答えている。

 美少女とレモンの蜂蜜漬け、それは私にとって大切な青春の1ページ。

 

(完)

 

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