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ミツバチと共に90年――

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ハニーハンターとの出会い

隊長

 

 ネパールの山の中だった。絵をかきに来ていた。
 崖の窪みに野生のミツバチが巣を作っていた。これはヒマラヤオオミツバチの巣だ。スイカよりも大きく、平らで幾重にも重なっている巣に、ニホンミツバチより少し大きい蜂が羽音を立てて巣に風を送っている。どこかに指揮をする蜂がいるのかと、私はしばらく眺めていた。
 蜂は周期的に羽を震わせて風を送り、巣の温度を一定に保とうとしているようだ。その間にも蜜を集めてきた蜂は巣に帰り、新しく飛び立っていく。
 確かに分業をして巣を維持し、役割を努めているように見えた。そこには指示したり、司令を受けたりという言葉はないかもしれない。しかし、明らかに伝え合う何かがある。言葉でなければ羽音か、温度か。私は更に知りたくなった。
 ところがそこに二・三人の村人が来て、下草を刈って束にし、火をつけた。刈り取ったばかりの草は燃えることなく煙を吐いた。煙はゆらゆらと立ち上り、崖に沿って上がっていく。蜂の巣が煙を受けると、蜂の動きが静かになった。
 それを待っていたかのように、崖の上から縄梯子で降りて来る人がいた。彼は片手で縄梯子を握り、片手には鎌のついた竿を持っていた。巣を挟むように、もう一人が縄梯子で降りてきた。彼はザルのついた竿を巣の下にあてがうと、最初の男が鎌で巣を切り取った。
 二人の絶妙な連携で、蜂蜜は村人の物となった。その間ミツバチは刺しまくっていた。村人は何度となく手で蜂を追い、奇声を上げ、顔をしかめていた。
 痛かっただろう。蜂は草を燻す方にも攻撃していたけれど、村人は刺されても尚、流れるような動きが続いていた。
 蜂蜜は貴重な薬だと村人は言った。みんなで分け、残りは売って村の維持費に当てるのだそうだ。水道を引いたり、道を普請したり、橋をかけたりもしなくてはならない。
 みんなで平等に分けるから、特別な利益を受ける人がいる訳ではないともいう。蜂蜜取りは村人のために行う大切な行事の一つだそうだ。刺されて、腫れ上がった顔や腕は村人としての勲章なのだともいう。
 私は何も言えず、蜂の巣の一切れをもらって食べた。値千金の蜂蜜だった。高価な蜂蜜の甘さを繰り返し舌でまさぐっていた。
 あたりにはハニーハンターが去っても、まだ蜂蜜の香りが漂っていた。
 ネパールの山の中での出来事だった。

 

(完)

 

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