真っ赤なりんご
ピンクの水筒と半袖で4人1組になった私たちは、街に繰り出す。いつも通っている道、いつもの店並び。でもなんだか今日はちょっと違う。だっていつもはお母さんと一緒だから。友だちに説明することが楽しいような、こそばゆいようなそんな気分だった。
私の通っていた小学校では、2年生になると校区探検と称して自分の住んでいる校区の地図をつくる授業があった。文房具屋さんや、果物屋さん、雑貨屋さん、ケーキ屋さん、服屋さん、コーヒー豆屋さんなど商店街があったからいくつもの個人商店があった。お店にいってインタビューして、記録する。その中の一つに蜂蜜屋さんがあった。
いつもは前を通り過ぎるだけ。入ったことはなかった。友だちが、ここ来たことあんねんと、物知り顔で「こんにちは」と中に入っていく。私もおどおどしながら続いて入っていくと、黄金色の景色が目に飛び込んできた。良く見ると全て、同じ色じゃなくて茶色っぽいのから明るい黄色まで、バラエティがある。お店のおじさんが出てきてくれて、私たちの「どうして色が違うんですか?」「どうして蜂蜜屋さんをしようと思ったんですか?」「蜂蜜はどんな栄養があるんですか?」と言った質問に一つ一つ丁寧に答えていってくれた。「ありがとうございました」私たちが帰ろうとすると、おじさんはちょっと待ってて、と言って奥からビニール袋に入れた蜂の巣を持ってきてくれた。
お土産に、一個ずつどうぞと手渡してくれた蜂の巣には、蜜が黄金色に輝いていた。私たちは、やったーっと喜んで、お礼をいってお店を後にした。その後、学校に集まったと思うけれど、そのことは覚えてなくて、家に帰ってから兄に、母に自慢したのを覚えている。
テレビで見たことはあったけれど、初めて目の前にある蜂の巣に、蜂蜜に宝物のような感覚があった。
色の濃くなった所をそっと指で押してみると、とろっと指になり、舐めると甘い。今度は色の薄い部分を噛んでみた。ボソボソと口に残る。明日の朝食はホットケーキにしようかと母が言ってくれたので、蜜で色が濃くなっている部分は残して、残りの少しでも蜜のある部分は食べてしまった。「何やってんの」と、母と兄は笑い、自分でも意地汚いなぁと苦笑した。
ボソボソと口に残った食感と、なんとなく幸せな家での団欒。蜂蜜と聞くと、喉に良い、身体にいいという印象とともに、あの時の兄と母との何とはない平凡で平和な会話、そしてちょっと口に残った自分の欲を思い出す。
(完)
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