長谷川都
15年前の年の暮れ、私は恋人と旅していた。オーストラリアのタスマニア島。南半球は夏だったが、タスマニアは涼しく、観光するのにはいい気候だった。レンタカーを借り、数日をかけて島のあちこちを巡った。クレイドル山という有名なハイキングスポットを散策し、幻想的な湖を見た。観光客慣れした人懐っこいワラビーと写真も撮った。土ホタルという洞窟に住む光る虫の、満点の夜空のような光景は今も脳裏に焼き付いている。
タスマニア旅行の3日目に一軒のはちみつ専門店に辿り着いた。はちみつしか売っていない店なんて初めてで、ずらりと並ぶはちみつのボトルは壮観だった。一種類ずつ味見させてもらった。「全然違う!」衝撃的だった。スパイシーなもの、香り高く口全体に甘さが広がるもの、すっきりとした甘さでミントのようなさわやかな香りのもの。それまで、あまりはちみつの花の表示に意識を向けたことはなかったが、花によってずいぶん味と香りが違うことを始めて知った。中でも私たちが一番気に入ったのは、花のような香りと共に、さわやかな甘さのあるレザーウッドのはちみつだった。彼がとても気に入って、5瓶も買った。
健康というキーワードに弱い私は「とても体にいいのよ」という店員さんの一言で、マヌカハニーを1瓶買った。他のはちみつよりずいぶん値段が高かった。つい買ってしまったものの、当時はクセのある風味が苦手で、何年も戸棚の隅に眠らせていた。結局、引っ越しの時に、他の不要なものと共に処分してしまった。
引っ越しから数年後、マヌカハニーは日本でも有名になった。私もマヌカハニーを購入するようになり調べたところ、タスマニアで買ったものは純度がとても高かったのだと知った。もったいないことをしてしまった。
私はすっかりはちみつのとりこになり、うちには今も数種類のはちみつが常にある。普段気軽にたくさん使えるものと、少しずつ味を楽しむもの。そして風邪の予防に使う、マヌカハニー。今では独特の風味にも慣れ、気にならなくなった。
タスマニア旅行の後、恋人だった彼は夫になった。夫が一番気に入ったレザーウッドのはちみつは今でも日本ではなかなか手に入らない。5瓶も買ったのに、2人であっという間に食べてしまった。夫と、いつかまたレザーウッドのはちみつを食べてみたいね、と話している。はちみつが大好きに育っている4人の子どもたちと一緒に。
(完)
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