Elke
「牛乳、はちみつ、ストロー!あっためて!」
午前中の間におばあちゃんの家に到着し、買い出しに出かける。買い出しから帰ってくるや否や注文していた。
グラスに入れた温かいはちみつ牛乳のストロー付き。
みんな揃ってお昼ご飯?違う違う、分かってないね。
その前にこれを飲まないと。
私にはこの注文が、何より大切だったんだ。
最初に作ってくれた時も、いつから頼んでいたのかも、分からない。
母は厳しく、父は無関心だと子ども心ながらに感じていた。
その日常を抜け出したおばあちゃんの家。
おばあちゃんの家でご飯を食べる日だけは、母も少し優しくなるし、父も話をしてくれた。
それに、はちみつ牛乳のことだけは誰も何も言わないって、気づいてたんだ。
おばあちゃんが作るはちみつ牛乳の優しくて包み込まれるような味わいに、安心し切っていた子どものころ。
長い長い月日が流れ、おばあちゃんは、91歳になった。
おばあちゃんは覚えているだろうか。私のこんなめちゃくちゃな注文をいつもいつも受け続けてくれていたことを。
もうはちみつ牛乳を作ってくれることはないかも知れない。
もうはちみつ牛乳のことさえ覚えていないかもしれない。
そう言えば台所、もう使ってないみたい。
それならストローは…もちろん無いよな。
そうだよね、私ことも分かる時と分からない時があるみたい。
だけどおばあちゃんの家の階段下にある収納庫には、今も、そしていつも、かなりの数のはちみつが置いてある。
いつ頼んでいるのかもいつ届くのかも知らないけど、おばあちゃんがはちみつを切らしているのを見たことがない。
私の記憶にある温かくて優しい安らぎ。
私ね、おばあちゃんの家でしか飲んだことがないんだよ。
自分で作ったことだって、もちろんないの。
もし私が作ったら、おばあちゃんと同じようなはちみつ牛乳が作れるのかな?
そしたらおばあちゃん、飲んでくれるかな?
(完)
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