渡海真治
小学生の頃、帰宅するとおやつには遠方に住む祖母から届いた瓶詰のはちみつ漬けレモンが出た。ヨーグルトにのせたり、刻んでパウンドケーキに混ぜ込んだり、丸くカットしてクッキー生地と焼いたり。今から考えれば手のかかった、贅沢なおやつだった。季節ごとに瓶詰に使われる果物は変化して、どれもとても美味しかったのを覚えている。
はちみつは美味しい、と学んだのはこの時期のことで、自分でもお菓子作りをしたがる子供だったから、母親の真似をして祖母のはちみつ漬けを使いゼリーやババロアを作っては家族に振舞った。(その前に自分でこっそり味見したから実は1/4くらいは減っていたのだけれど)評判は悪くなかった。一度祖父母の家にも焼き菓子を持参したことがあって、二人して大仰に喜んでくれたのが、子供心に嬉しかった。
長じるにつれお菓子作りから興味が離れ、中高で部活に忙しくなってからは全くしなくなったのだけれど、はちみつ漬けはスポーツで汗をかいた後で口にできるよう、タッパーに入れて学校へ持っていくのが習慣だった。
親元を離れて一人暮らしをするようになって自炊を始め、またはちみつと縁ができた。今度は料理にはちみつを入れるようになった。豚肉のかたまりを煮たり、カレーを作ったりするのにはちみつを加えると味わいがまるで異なる。風邪の引き始めにはちみつをお湯に溶かして飲んだ。勿論、祖母の瓶詰レモンも一緒に浮かべて。
はちみつは名脇役だ。思えば、これまでの人生の幾つかの場面でさりげなく登場し、私に新しい楽しみを教えてくれた。今も、いつでも使えるよう、台所に常備されている。
次にはちみつで何を作ろうか、このエッセイを機会に考えているところだ。
これからも私とはちみつの付き合いは続きそうだ。
(完)
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