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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂の子とのめぐりあい

笹原覚

 

 今から四十年以上も前に衝撃的なニュースドキュメンタリー番組を見た記憶がある。それは長野県駒ヶ根における蜂の子採集を追いかけた映像で男たちが数多の危険を乗り越えて大きな巣を持ち帰り、最終的にはとてもうまそうに調理して食べる様をルポしていたものだ。蜂の子を食する文化のない北海道出身の僕にとっては語弊を恐れず言わせてもらえばハエのウジ虫にも似た、蜂の子を舌鼓打ってかっ食らっている姿自体に驚きを禁じ得なかった。
 「信州ってとこはとんでもないゲテモノ食いが住んでいるところなんだな――と反射的に思ってしまったが、しかし男たちのあまりにも屈託のない素敵な笑顔を見ているうちに「なんか本当においしいのかも知れないなあ」という印象が、子ども心にも強く焼き付けられた。
 時流れ十数年後、二十代後半の東京に住んでいた僕は時々、飛騨方面に出張する機会が増えた。当時は飛騨地方にダイレクトで通ずる高速道路はなく、東京からクルマで行く場合は岡谷JTCから伊那谷を南下、中津川ICを降りたら一般道で、という北アルプス越えのため大迂回するような行き方が主流だった。よく駒ヶ岳SAで弁当を食べたものだが、ある時土産物屋で遙か昔のあの番組を想起させる瓶詰めを見つけ、息をのんだ。「蜂の子」との邂逅であった。一切、迷わなかった。一瓶握りしめてレジで会計した。クルマに戻ってまだ残っていた弁当のごはん上に蜂の子をばらまいた。テレビで見た男たちの豪放磊落な姿が脳裏をよぎった。少しだけ恐れながらも僕は蜂の子を食べた。柔らかく甘く、何か体の奥からパワーがみなぎってくるような感覚すら覚えた。確かに見た目は悪い。しかしうまかった。あの男たちの笑顔の謎が謎でなくなった瞬間だった。
 それを境に飛騨行き出張のたびに僕は、駒ヶ岳SAで蜂の子を買い求め、その場の弁当用と東京に帰宅してから家で食べるための常備用として二~三瓶買うのが習慣になった。同僚は見て見ぬ振りを決めこんでいたし、僕も彼らに奨めはしなかったが「蜂の子のうまさを知らずに人生を終えるとはなんと損した人生よ」と憐れみの情など沸々と湧かせて、悦に入っていた。本来、僕は変わった食べ物に強い興味を持つ性質があるのは認める。しかし蜂の子ほど姿形と味の差にギャップがある食べ物もそうそうないように思われる。
 今では僕も五十五歳。東京を離れ故郷の北海道で妻と二人暮らしだが、このエッセイを書きながらやにわに蜂の子が食べたくなってきた。今はネットで簡単に入手できるが、「蜂の子」はちゃんと家族の了解を得て買わなければ、何かと問題が起きそうな食べ物ではある。「そうだ、この文章をそっくりそのまま、妻に渡そう、プリントアウトした『ハチの宴』の紙と一緒に!」決して盤石な名案とは言えないが、僕の熱意は伝わるだろう。また時空を超えてあの味とめぐりあえることを祈るばかりである。すべては妻の機嫌次第だ。

 

(完)

 

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