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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

私が女王蜂だ

はずみ

 

 音大生時代、声楽科は大きく龍角散派・ ボイスケア派・ プロポリス派の三大派閥に分かれていた。のど飴の話である。
 鞄の中に入っているのど飴は人によって違ったが、この御三家のうちのどれかを持ち歩いている人がほとんどだった。初代ポケモンで言う、ヒトカゲ・ ゼニガメ・ フシギダネというわけだ。
 「ごめん、飴持ってない?」と聞いて出てくるのが何かによって「○○派か~」みたいな会話をよくしたものだ。

 私はその頃に、恐らく一生分の龍角散を舐め尽くした。ある日突然、身体が龍角散の味を一切受け付けなくなってしまったのだ。あの独特の薬っぽさと謎の甘み。喉に不安がある時も、ほっぺの裏に忍ばせておけば大丈夫な気がするくらい精神安定剤だったのに……
 もしかしたら人が同じものを食べ続けられる限界値って、遺伝子レベルで決められているんじゃないかと思う。かなりお世話になったのに、薄情なものだ。
 そんなこんなで、私はもう龍角散に頼れなくなった。喉を気にして飴を舐めてばかりいたせいで、ところどころ口の中が切れて血の味がする。実は飴って鋭利なのだ。

 蜂蜜との出逢いは、ミュージカルサークルの練習の帰り道だった。今思えばコロナでもなんでもなかったのに、マスクをして乾燥に怯えていた冬場。なんとなく口寂しさを感じながら公民館から駅まで歩くと、ビルの前に見慣れない特設スペースが出現した。ワゴンには所狭しと蜂蜜の製品ばかり並んでいた。
 気づけば蜂蜜湯の試飲を配るお兄さんに捕まり、セールストークをされていた。“プロポリス最強説”を唱えるお兄さんの横で、もらった蜂蜜湯に息を吹きかけて冷ます。
 お兄さんはその様子を見て「蜂蜜は熱に弱いので、ほんとはお湯に溶かしちゃダメなんですよ!せっかくの効能が台無し」と言い出し、一体私は何を飲まされているんだとおかしくなった。
 「結晶化したら蜂蜜と一緒にお風呂に入るのがオススメです!」という謎のアドバイスをされた頃には、蜂蜜湯は猫舌の私でも飲める温度になっていた。ほんのり甘くてほっとした。

 あれからというもの、鞄の中にはかつての龍角散の代わりに、たまに給食に出てきたようなチューブタイプの蜂蜜が入っている。熱に溶かすのがダメなら舐めるのが一番早いし、効く。今は本番前に蜂蜜を直接のどに流し込むスタイルに落ち着いた。

 蜜蜂が一生をかけて集められる蜂蜜は、たったティースプーン1杯分だという。命を削って女王のために運んだ蜜を人間に横取りされて一瞬で食われてしまうとは、憐れな運命だ。だが間接的ではあるが、働き蜜蜂に声を守られている私こそが女王蜂だ。
 せめて私の糧となることで、蜜蜂の魂が救われますように。

 

(完)

https://twitter.com/ojamajo_hazumi

 

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