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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

くまくんのはちみつ

田口杳

 

虹の根元には何があると思う?と聞かれたら、私は迷わず「はちみつ」と答える。
幼い頃、家にはたくさんの絵本があった。寝る前には母がそれらのお話しを読んでくれるのが日課だった。特に好きだったのは「くまくん」の絵本だ。くまくんと友達の小鳥が虹の根元の木のうろで金色のはちみつを見つけ、バケツにいっぱい持って帰って、ホットケーキを焼いてはちみつをかけて食べる、というお話しが大好きだった。何段も重ねられ、はちみつがたっぷりかかったホットケーキのおいしそうなことといったら。
そのたくさんの絵本は今、3人の子どもを持つ私の家にある。絵本を開くと、絵本を読む母の声が聞こえてくるようだ。語尾の調子や言葉のリズム、息継ぎをする場所まで鮮明に思い出されて、それはひどく懐かしく、まるで母が側にいるかのようなほっとした気持ちになる。同時に、あの頃と同じ絵本を開いているのに自分がもう子どもではなく、母の住む実家から遠く遠く離れた見知らぬ場所にいて、隣りには母ではなく子ども達がいるということに大きな違和感を覚えて不安にもなり、涙が出そうになる。
私には夢があって、それに向けて毎日少しずつでも努力したいのだけれど、3人のわんぱく坊主たちとの毎日は心も体も本当に忙しい。子どもたちを寝かしつけたらあれもしたいこれもしたいと考えてはいても、つい一緒に寝落ちしてしまって、結局自分だけの時間を作ることはほとんどできない。そのことにイライラしたり焦ったりするけれど、今はこれでいいのかな、とも思う。子どもと一緒に過ごせる時間は短い。渦中にいると永遠のように長く感じることもあるけれど、それは人生のうちのほんの少しの時間だ。けれどその時間は子どもが生きていくための力を身につける大切な時間だろうと思う。私が絵本を開いた時に母の声が聞こえるように、私も子どもたちに、私がこの世から去った後もずっと、安心の源となるような何かを残してあげられたら。親として子どもにしてあげられることなんて結局そのくらいしかないのだ。
子育てに忙しい今、私の夢は虹の根元の木のうろの、はちみつのようだなと思う。歩いても歩いても、永遠にたどり着けない虹の根元。でも今はこれでいい。子どもとの時間は今しかないから。夢の形がはっきりしていれば、そこへ向かって走り出すことはいつだってできるから。そう信じて、子ども達と何もない穏やかな、ありふれた、愛しい日々を送っている。

 

(完)

 

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