松浦 馨
八田さんは、その時体調が悪かった。だから長年、庭で飼っていたミツバチを守ることが出来なかった。ミツバチはスズメバチの襲撃を受けたのだ。
八田さんは奥さんにスズメバチを捕らえよと命じた。奥さんは果敢にも、虫取りのタモを持ってミツバチの巣箱の脇に立った。
スズメバチの羽音はグイーングイーンと唸るようだし、獰猛に攻撃を仕掛けてくる。一匹だけでも十分に怖い。八田夫人は頑張った。だが15匹捕獲したあたりで、ブチ切れた。「もういやだっ!!」。当然だ。よく頑張ったと思う。
だがミツバチは全滅してしまった。
八田さんの近所に住む私は、毎年蜂蜜のお裾分けを頂いていた。
白金色に輝く蜂蜜の綺麗だったこと。甘かったこと。もう舐められないのかと思うと残念でたまらない。
しかし話は終わっていなかった。里山暮らしの達人の八田さんは、捕虜にしたスズメバチの一匹に細い紐を括りつけてそっと放した。
蜂は自由になった喜びに飛び出した。
八田さんは目印の紐を見失わないように追いかける。
追跡するも、そう長い距離ではない。
スズメバチはとある木の根元に潜った。そこが彼の巣だった。
八田さん、「しめた」と取って返すと、里山仲間を招集して蜂の巣をまるごと
頂いた。中の蜂の子はすぐに取り出されて冷凍。
やがてコロナが収束したら仲間の飲み会のつまみになる。
この辺りには大昔、大きな一本の松があったそうで一本松と呼ばれている。
(完)
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