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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

祖母の贈り物

津槻たお

 

 飴色は美味しいと思い込んでいる。子供の頃からあの色を見ると直ぐにでも口にしたいと願ってしまう。視覚と脳とは面白いものだ。カチカチの松脂や化石の琥珀でさえ口に入れたいと錯覚させる。それがとろりとした蜂蜜ならば最高。蜂蜜の看板があればつい寄ってしまう。初めて食べたのは故郷の蜜柑山で収穫されたものだった。想像以上の蜜柑の香り。幼少期は蜜柑の蜂蜜ばかり好んで頂いた。その後、養蜂家が去ってしまったので今では思い出の味である。
中学生になり遅ればせながら生理が始まる。個人差があると言うが私は重かった。それは計ったように正確に訪れ、ベッドからも立てない日があるほど。現在の様に不織布や吸収素材があるはずも無く、痛いわけではないので鎮痛薬を飲むまでもない。月々の憂鬱が始まった。取敢えずはあまり美味しくない漢方の煎じ薬を厭々飲んだりしていた。
私の窮状を伝え聞いた祖母が贈ってくれたのは美しい箱に仰々しく包まれた丸い薄紫のガラス小瓶。当時の舶来品らしく大文字の筆記体でローヤルゼリーと英語で書かれている。横文字が長々と瓶に印刷されてあったものを四苦八苦して読むとスプーンにひとすくいが一回分ということだ。箱に同梱されていたのはオードブルピックほどの小さなスプーン。ひとすくいは耳かき山盛り二杯というところ。蓋を取ると蜂蜜色した顆粒状の細かなゼリーが現れた。蜂蜜味を期待して舌にのせたが味は殆どしなかった。往時、蜂蜜も貴重品だったのにさらに貴重なローヤルゼリー。その日から有難く頂戴する。「美容と健康」「女王蜂だけの食事」「冷え性改善」等々の知識効能を教えられ、本当に効果があったかは心許ないが憂鬱のお守りとしては心強いものだった。祖母からの贈り物は途切れ途切れしながらも私の高校卒業まで続いた。
私が祖母の齢となった現在では世界中の商品が間近になったのに、祖母が贈ってくれたあの小瓶は見当たらない。確か更年期にも良かったはずだよね。もう居ない祖母に心の中で呟く。蜂蜜に誘われ店頭で立ち止まる。国産の生のローヤルゼリーが手に入る。お手軽な錠剤もある。生産設備と流通が良い商品を広めている。良い時代になりましたねぇ。販売員さんはご存知ないでしょう。心の中で会話を温めながら私はひとり感謝する。

 

(完)

 

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