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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

祖母と蜂蜜

イシザキ

 

「じげもん」という言葉をご存知であろうか。
長崎県の方言で「地元の物」を意味する言葉である。
生まれは長崎県、育ちは京都府のハイブリッドな存在である私は、たいへんなおばあちゃん子であった。
長い休暇をいただくと、新幹線に飛び乗って祖母に会いに長崎に帰っていた。片道の交通費19840円も、祖母に会うためなら痛くも痒くもなかった。
ある日私は、お盆休みをいただいたので、長崎に帰っていた。
祖母は私が来てくれるのをたいへん喜んでくれて、食べきれない量のお肉やお魚、甘味などを用意してくれたものだ。
祖母の家でごろごろと、長崎時間を味わっていたある日のこと、祖母に「じげもん市」で買い物してきておくれと頼まれた。「じげもん市」とは、地元でとれた米や野菜、花などを販売している小さな商業施設だ。
「お墓に供える花とかんころ餅と蜂蜜を買ってきて。」
「蜂蜜は一番大きいのね。」
私は観光がてらに喜んででかけた。
じげもん市につくとすぐさま祖母に言われた物を探した。
一番大きい蜂蜜……。大きな瓶にはいった蜂蜜を見つけた。1kgくらいあるだろうか。これを祖母は食べきるのか?少し不安になった。
そして、色とりどりの花束と、かんころ餅とたっぷりの蜂蜜を持って帰路に着いた。
祖母にそれらを渡すと、
「ありがとうね。」
と微笑んでくれた。
その量の蜂蜜を消費できるのか?と問いただしたところ、
「蜂蜜は身体に良いからねえ。食欲がないときはこれを舐めてる。」
と返答された。
蜂蜜を舐めてる祖母を想像してなぜか黄色い熊が連れて出てきた。
…お盆休みが終わり一月程経ったころであろうか、日常に戻っていた私に、母から祖母が危篤状態である旨の一報が送られてきた。
私はすぐさま
すぐさま新幹線に飛び乗り、いつもと違う気持ちで長崎に向かった。
祖母のいる病院に着くと、管につながれた祖母が横たわっていた。
状況を聞くと、意識はほとんどないとのことであった。
いい歳をして私は、祖母の死が迫っていることを認知できなかった。
祖母の手に触れ、また帰ってきたよと伝えると、微かに瞼が動いた。
その場に居合わせた母と看護師さんは驚いていた。
ばあちゃんは僕が好きやねえ。僕も大好きや。
私がそう言うと祖母はまた意識を失った。
その日の晩に、祖母は息を引き取った。
いつまでも生きていると思っていた祖母はあっけなくこの世を去った。
祖母の家でぼーっとしていると、卓上の蜂蜜が目にはいった。
あの時私が買ってきた蜂蜜である。
蜂蜜の蓋をパカッと開けると、少しだけ減っていた。私はスプーンを持ってきて一口舐めた。
花のような香りと、ねっとりとした甘味に涙を流した。
やっぱりこの量は食べきれへんやんか。
もったいないので私はこの蜂蜜を持って帰ることにした。
この蜂蜜が無くなる頃には、きっと元気になるだろう、と。
祖母曰く、
「蜂蜜は身体にいいからねえ。」

 

(完)

 

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