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蜂蜜エッセイ応募作品

こっそりあげた蜂蜜

増田真奈美

 

 一度だけ、お義母さんが自分のお義母さんの話をしてくれたことがあった。
 二十代で嫁いた義母は、結婚当初から義父の母であるお姑さんと同居生活だった。
 今、八十五歳の義母。当時は姑の方が強かった時代だろう。世間一般では姑からいじめられた話をよく聞く。
 「お義母さんから意地悪されたわ」なんて話は一度も聞いたことがない。というか、全くお姑さんの話が出ない。話したくないほど嫌いだったのか、はたまた良好な関係で特に話すこともなかったのか、真相はわからない。
 だが十年ほど前、一度だけ話題に上がったことがあった。テレビを一緒に見ていたら介護の場面が映し出された。
 「お義母さんを介護しているときにね…」
 テレビをみながら義母がポツリと話し出した。お義母さんがお姑さんを介護していたことをその時はじめて知った。
 「お義母さんがどうしても蜂蜜を食べたいって言うのよ。お医者さんに止められていたから、みんなあげなかったけど、可哀そうでねえ…。最後の方、とうとうこっそりあげちゃったのよ、蜂蜜。そうしたらお義母さんすごく嬉しそうに食べてね、ずっと辛そうな顔してたから、余計にその嬉しそうな顔が忘れられなくてね…」
 私は黙ってその話を聞いた。
 満足そうな表情のお義母さんを見て、それ以上お姑さんに関して質問することもしなかった。
 蜂蜜を食べるたび、私はお義母さんの話を思い出す。介護などいろいろ苦労もあったと思うが、ミツバチが一生懸命蜂蜜を作るように、お義母さんも一生懸命にやってきたのだと思う。お義母さんのあの時見せた満足そうな表情は、蜂蜜の奥深い甘さに似ている。

 

(完)

 

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