たるろ
高級品がある。
子どもの手が届かない高い位置。硬い蓋。結晶化した白い所が辛うじて見える奥の方に、蜂蜜様は鎮座なさっていた。
忙しかった母は、おやつを作るなどほぼしなかった。稀に、本当に気紛れに作ってくれたホットケーキを今でも覚えている。
一人二枚。薄く塗ったマーガリンと半結晶化した蜂蜜をポトンと落としたそれを、弟と夢中になって食べていた。熱で段々と溶け混じった味も、シャリシャリして舌の上から消えても残る癖のある甘さも、ただただ幸福だった。
次はいつありつけるだろうと時々瓶を見ていたが、いつの間にか瓶ごとなくなっていた。そして母も体を壊し、あのホットケーキは食べられなくなった。自分たちで作ったホットケーキには、マーガリンだけを乗せていた。
自分で稼げるようになってから買った蜂蜜は、とろりとしていて、紅茶によく合った。喉が痛む時に一匙舐めた。美容に良い蜂蜜や蜜蝋を、パックやリップとしても使った。現在実年齢よりも若めに見られるのは少なからず蜂蜜様のおかげだろう。
成長して、ミツバチさんがバケツで運んで分けてくれたのが蜂蜜だとは信じなくなった。養蜂家さんがミツバチを管理し、安心安全な幸福を世に出している。ミツバチが苦労して作った巣と、自分たちの子どもに食べさせるための蜂蜜を分けてもらっているのだ。冬を越すための貴重な食料を取られ、安心できる家を壊され、ミツバチは怒っていないのだろうか。
今、私は子どもたちのためのホットケーキを焼いている。ふとミツバチの気持ちに思いを馳せたのは、自分も親になったからだろう。すみません。分けてもらいます。物凄く感謝しています。一欠のバターと蜂蜜はお好みの量で。あの頃とは違った味ではあるけれど、思い出す味はいつも同じで。とろりと幸福を垂らして。子どもたちと一緒に手を合わせます。ーーいただきます。
(完)
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