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 子供の頃は、しょっちゅうお腹を壊していた。裏の畑のキンカンをもぎ取って、それを洗わずに食べたり、駄菓子屋で、生焼けのお好み焼きを食べたりしていたからだろう。
 お腹を壊した時の定番といえばお粥だけれど、母が私に食べさせたのはハチミツ・トーストだった。
 こんがりと焼かれた食パン、大きなマグカップに入った湯気立つ紅茶、そして小鉢に盛られたハチミツ。それらがトレイに乗せられ、寝ている私の枕元に置かれる。母がトーストを千切り、ハチミツをたっぷりと塗り、さらに紅茶に浸す。それを布団から起き上がった私の口に運ぶのだ。
 「はい、あーん」
 優しい甘さが口いっぱいに広がる。温かな液体が喉を伝い、弱ったお腹に下りていく。これできっと、お腹も機嫌を直してくれるに違いない。そう信じて私は次の一口を母にねだるのだった。
 けれど、それがトラウマになったのか、ハチミツ=病気の時に食べる物という概念がすっかり定着してしまった。どうしても積極的に食べる気になれず、成長し親元を離れてからも、結婚し家庭を持った後も、キッチンにハチミツが置かれることはなかった。
 最近、添加物や食品の原材料がやたらと目に付くようになった。歳を重ね、体のあちこちにメンテナンスが必要になってきたからだろう。
 ある時、夫が言った。
 「ハチミツがいいらしいよ」
 高めの血圧を気にしていた私のために調べてくれたらしい。ハチミツは自然界の降圧薬とも呼ばれているそうだ。早速、私はハチミツを買ってきた。以来、料理には砂糖の代わりにハチミツを使うようになった。煮物はもちろん、ソースやドレッシングにもハチミツ。休日の朝に焼く、おからのパンケーキにもハチミツをたっぷりかける。いつのまにか、私はすっかりハチミツのファンになっていた。
 それにしても、なぜ母は消化の良いお粥やうどんではなく、パンを食べさせたのだろう。食いしん坊で甘い物に目がなかった私。お腹の調子が悪いくせに、ケーキを食べたいと駄々の一つでもこねたのかもしれない。あれはきっと、母が私のために苦労して考えたメニューだったのに違いない。
 紅茶に浸した熱いパンをふうふうと冷まし、食べさせてくれた母はもういない。鍋にひと匙垂らす時、温めた牛乳に混ぜる時、母や夫の思いやりもハチミツと一緒に溶けていく。だからハチミツを使った料理は、いつも愛情たっぷりの、特別なごちそうになる。

 

(完)

 

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