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蜂蜜エッセイ応募作品

ハチミツと母の手

秋田陽子

 

 もう40年以上も前のこと。
 「お母さん、口の中がチクチクする。ハリでつつかれてるみたい。イタイよー。」
 「どれどれ、見せてごらん。あ、これは口内炎だね。お薬塗ってあげるから口をゆすいでおいで。」
 母にそう言われて口をゆすぐも、痛みでちゃんとクチュクチュできない。母も手を洗って、お薬とやらを人差し指につけている。
 「ねぇ、イタくない?にがくない?」と訊く私に、母は歯医者さんみたいに言った。
 「はい、大きく口を開けて。」と言って私の口の中を覗き込み、薬のついた指をそっと患部に押し当てた。チクッとした痛みに思わず顔をしかめる。
 「はい、おしまい。」母は両手で私の頬を包み込み、、おでことおでこを合わせて言った。
 「舐めたらだめだよ。もうこれで大丈夫。」
 私はこの薬が苦いのかを確かめたくて、恐る恐る患部を舌でなぞってみた。
 「ん?あまい!え?!これ、ハチミツだ!」
 驚いたことに舌が触れても痛くない。私はついさっき母に言われた言葉も忘れ、舌でペロペロと口内炎を舐めた。案の定甘さがなくなると同時に痛みも戻ってきた。
 「お母さん、また痛くなってきた。"ハチミツ"ぬって!」
 「あー、さては舐めたな。ダメって言ったでしょ。」
 母はあきれた顔で言って、またハチミツを塗ってくれた。
 しばらくこの痛みは続き、口内炎が白く穴ぼこみたいになって大騒ぎした時も、もう治りかけだと言って、いつものようにお薬を塗ってくれた。
 そのうち痛みも無くなり、口内炎も口の中から消えていった。治って嬉しいはずなのに、もうハチミツを口の中でペロペロ味わえないのは少し残念だった。 
 でも今思うと、母がハチミツを塗ってくれる時に顔を近づけたり、塗り終わった時に、私のほっぺを両手でぎゅっと包み込んでくれる、その時間をを味わうことが、私の一番の幸せだったんだろうなと思う。

 

(完)

 

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