園 あい
「これ上手そう!これ大好きなんだ!」
社内で回覧されている「巣蜜」を指差しさっそく注文していた彼の姿が脳裏に焼きついている。彼の大好物らしい。
さすがこの巨漢はこれで作られたのか!?と思った。
彼は同じ部のとなりの席の後輩の男の子。その子は百八十センチ以上、おそらく体重は百キロを超えそうな感じ。とにかくがっしりとしていて大きいのだ。声も恐ろしく大きく態度もでかい。でもなぜか憎めないところがあり、その子のまわりには笑いの渦がいつもあった。
「おはよう!」から始まって「お疲れさま」と帰宅までずっと同じフロア、同じ空間でいちにち一緒に仕事をしていた私たち。
初めて出会ったときは変な子だなと思っていたが意外といい人かもと思うようになった。いつもなぜか私のまわりに衛星のようにいて、困ったときは手伝ってくれたり、嫌なことがあったときは話を聞いてくれたのだ。
「いいやつ」がぴったりな彼。でも異性としては思えず、彼も女子好きな子で、始終色んな女性を追いかけていた。
いつも一緒にはいたが、ちょっぴり気にもなりながら、ただの同僚でしかなかった私たち。結果的にふたりとも違う方向へかけぬけて行った。
しかしながら、娘時代のあの頃のよき思い出の中に彼もすみっこにいる。それはほろにがくも懐かしきキラキラ輝く黄金の時代であった。
これはかれこれ二十年以上前のわたしの思い出のちいさなはなし。今でも巣蜜を見ると彼の無邪気な顔を思い出す。
(完)
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