わたつみ 蒼
その島へは、あるテレビ番組を見て、白嶽という山の美しさが心に残り訪れることにした。メジャーな離島でないため、情報源は少ない。島の観光物産協会に直接お願いして、いくつかパンフレットを送ってもらった。その一つに、蜂洞の写真があり、この島のはちみつは流通が少なく、貴重なので見つけたら即買いしよう、という内容が載っていた。
私は海外でも日本でも、旅先でその土地のスーパーに行くのが楽しみのひとつだ。もちろん、その島でもスーパーに行く。対馬産のはちみつはない。観光物産協会の売店も訪れる。対馬産のはちみつが入ったゆず茶はあるが、はちみつは売っていない。その島は観光業にあまり力を入れているようではなく、土産物屋の数も少ない。その数少ない土産物屋にもなかった。いったいどこで、手に入るのだろう?
その島の南部を歩いたときに、いくつかの蜂洞を見た。蜂洞とは日本みつばちが蜜を貯めるもの。木で作った郵便ポストのような形をしている。観光客が蜂洞を見て「この島のお墓は木でできていて、みすぼらしい」と言ったことがある、とタクシーの運転手に聞いた。その島には日本みつばちしかいない、という。そして、多くのはちみつが単一の花の蜜でできているのと違い、たくさんの花々の蜜を日本みつばちたちは蜂洞に集め、人間が三分の二、蜂には冬に飢えないように三分の一残して、収穫される。今流行りのSDGsがその島には脈々と息づいていた。
元寇の舞台となった浜は、路線バスもなかったが、市が助成金を出して、乗り合いタクシーで行くことができる。知り合った人から、そのルートに美味しいそばを食べさせてくれる店を聞いたので、迷わず訪れる。炒めた野菜がたっぷり入ったそばは甘くて、初めての味、そして美味しかった。お会計の時にレジの横に小さな瓶があった。あれ、もしかしいてこれは?濃い琥珀色をしたはちみつ。やっと見つけた。まさか、おそば屋さんで出会うとは思わなかった。とろっとしていて、香りがふくよか、滋味あふれる初めての味。
(完)
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