渡辺 碧水
東京五輪最終日の二〇二一年八月七・八日、札幌市大通公園発着で女子と男子のマラソンがあった。両日共に先頭を走る集団の中に、やや複雑な同じ模様のユニフォームを付けた複数の黒人選手が混じっていた。いずも余裕のある走りで、お互いに激励し合いながらレースを楽しんでいるかのようであった。
よく見ると、その模様は「蜜蜂の巣」を描いたもので、大柄な体でゆとりの歩幅でストライド走法の選手はケニア国の選手だとわかった。興味をそそられて、気が付くと、上下共に蜂の巣模様のユニフォームの選手たちを応援していた。
アフリカの選手であるから、暑い中を走るのは慣れているのであろう。顔の表情は終始歪むことなく、時折、白い歯を見せて、沿道の応援者に手を振っていた。
案の定、終始見事な走りを見せてくれた。七日の女子では、二時間二十七分二十秒でゴールした金メダルのペレス・ジェプチルチル選手も、十六秒遅れで続いた銀メダルのブリジット・コスゲイ選手もケニア国の選手だった。
八日の男子では、二時間八分三十八秒で走り、二位に一分二十秒の差をつけて、右こぶしを上げてゴールした選手は、ケニアのエリウド・キプチョゲ選手だった。二〇一六年リオデジャネイロ五輪に次いで金メダルの連覇を達成した。マラソンの世界記録保持者だそうだ。三位争いで振り切られてメダルを逸した四位のローレンス・チェロノ選手もケニア国の選手だった。
アベック優勝で話題を独占したケニア勢は、表彰台でも蜜蜂の巣模様のユニフォーム姿で臨んでいたが、デザインは競技時とは別の蜂の巣模様。ひたすら長距離を飛び続けて巣を維持し一生を終える蜜蜂の持久力のすごさを暗示するかのようだった。
ケニア国と蜜蜂・蜂蜜との関係は、日本にはほとんど伝わっていないのか、インターネット等で調べてもわからなかった。残念なことに、東京五輪でケニア国の選手が各種の蜜蜂の巣をデザインしたユニフォームをなぜ着たのか、もわからなかった。一部のツイッターに「めちゃくちゃオシャレだ」の投稿があったようだが、これに着目して取材した報道記事が見当たらないのはさびしい。
オンライン誌『PLOS ONE』が二〇一四年四月十六日公開した論文には、ケニアの蜜蜂は他の地域の蜜蜂に壊滅的な被害を与えているのと同じ悪質な病害虫に感染しても、驚くことに病気に打ち負かされず、複数の病原体が同時に存在する場合でさえ、巣では健康が維持されている、とあった。欧米で起きている蜂群崩壊に立ち向かう新たな希望は、ケニアの蜜蜂たちにはある。そんなメッセージだったのかもしれない。
(完)
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