 
 
うさぎ男
 嫌がるボクに妻はいつものようにスプーンを差し出す。
   
   小さじのスプーンの上にはマヌカハニーが乗っている。まずはボクが舐め、次に妻が舐める。もう一度ボクが舐めた後、妻が残りのスプーンを、ぺろぺろキャンディーを咥える子供のように口に含んだ。これが朝と晩の我が家の習慣。
   
   ボクは甘いものが嫌いだ。
   時 々、嫌がるボクの口を無理やりスプーンでこじ開けて、マヌカハニーを舐めさせる。
   
   ある日、夕食を食べながら妻が、抗菌作用が強い蜂蜜があるそうよ、とどこかで聞いてきた。
   「虫歯予防にもなるし、風邪も引かなくなるそうよ。」
   「ふ~ん。」
   ボクは半信半疑で聞いていた。
   「試しにひとつ買ってみようか?今度の日曜に、買い物行くときにでも探してみよう。」
   このときのボクは変な名前の蜂蜜があるものだな、と思いながら、グラスに半分くらい残っていた辛口の白ワインを勢い良く飲み込んだ。
   「ところで、奥渋に新しいお店ができたらしいよ。この前のチーズ屋さんの近くらしくって、、、。」
   話題は、当時の映画の舞台になった渋谷の奥渋エリアの飲食店の話題にスライドした。妻は新しく出来た店に興味津 々で、次の話題に乗ってきた。
   
   あれから数年後、我が家には朝晩の儀式のような習慣が出来た代わりに、ボクは風邪を引かなくなった。毎年、冬になると必ず風邪を引いて体調を崩していたのだ。最近では、体調が良いせいか、気分も軽くなるし、虫歯もない。
   
   儀式の後、あの有名なCM、「う~ん、まずい!もう一杯!!」を思い出した。
   「似ているな、、、。」
   ボクは心の中でつぶやいた。
   
   ボクは甘いものが嫌いだ。
(完)
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