櫻川ふみ
東京に嫁いだ一人娘から、おめでたの知らせがあった。飛び上がるほど嬉しかったが、反面心配も大きかった。高齢の初産なのだ。その上持病があったので、母体が心配だった。
徳島への里帰り出産は認められず、東京の病院で出産すると言う。
ふと、四十年前の自分を思い出した。上勝町の農家に嫁ぎ、初めて身ごもったとき、姑から「栄養つけて、ええ子を産まないかん」と言われた。
姑にとっても初孫で、期待が大きかったのだ。「妊婦には『みつの飴』が一番じゃ」と姑は言う。どんな飴玉だろうと思っていると、どんとガラスの瓶を食卓に置いた。それは天然の蜂蜜だった。上勝町では、蜂蜜を「みつの飴」というのかと、初めて知った。
白く固まった「みつの飴」を湯呑みにたっぷり入れ、お湯で割って飲ませてくれた。花のような香りがした。
「優し~い甘さが、体にしみ込んでいくわ」と私が言うと、「そうじゃ、みつの飴は、吸収が早いし、脳のエネルギーになるけん、頭のええ子ができるよ」と言って笑った。元看護師だった姑のひとことは、確信に満ちていた。
昭和四十七年の元旦に、無事元気な長男が 誕生した。
「そうだ! 今度は娘に」と思った。
蜂蜜をたっぷり入れたマドレーヌを焼いて、レンゲとアカシアの純粋蜂蜜とともに東京の娘に送った。
「蜂蜜ありがとう。マドレーヌ、しっとり甘くておいしいと思ったら、蜂蜜入りね」とのメール。
「みつの飴は吸収が早いし、脳のエネルギーになる、とは上勝ばあちゃんの言葉」と返信。
昨年5月3日、自然分娩で、無事女の子を授かった。
「ばあちゃん、曾孫ができたよ。ばあちゃんのお蔭です」
今は亡き姑の墓前に報告した。
周りは、真っ白いすだちの花の香りが漂っていた。
「親から子 子から孫にと みつの飴」
(完)
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