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「レモンティー」の思い出

みずすまし

 

 私がまだ幼かった頃のこと、それはもう半世紀も前のことになる。風邪を引きかけた私に、母が作ってくれたのはレモンティー。レモンティーといっても、紅茶にレモンを浮かべたものではなかった。
 用意するものは、レモンと蜂蜜だけ。レモンのへたを取り除き、厚めの輪切りにする。その輪切りのレモン全部と、蜂蜜をたっぷりマグカップに入れ、湯を注ぐ。あとはスプーンでレモンを潰し、好みの味にする。シンプルにそれだけ。果汁が残ったら二杯目も飲める。のちに流行った、いわゆる蜂蜜レモンだ。我が家では、それをレモンティーと呼んでいた。
 これが本当に美味しかった。鼻水が出て喉が痛く、熱っぽくて悪寒のするからだに、甘酸っぱく染み渡った。この時の生き返る感覚は今でも忘れられない。
 このレモンティーが小食の私のお気に入りとなったので、父は庭にレモンの木を植えた。美味しくたっぷり飲めるようにと。
 初めてレモンが実ったときは感動した。九月、三つ実ったレモンのうち一つをまだ青いうちに木から採った。今でいう青レモンである。黄色いレモンしか見たことがなかった私には驚きだった。小ぶりで果肉はほんの少ししかなかったが、言いようもなく爽やかだった。この初自家製レモンのレモンティーも、また特別な一杯となった。
 レモンの

木は年々充実して、百個以上実るようになった。青色から黄色になる時期まで、レモンの色どりの変化を楽しみながら木から採っては、レモンティーにして飲んだ。私が実家を離れてからも、父は毎年青レモンが実り始めたら、レモンを送ってくれた。蜂蜜の瓶とともに。
昨年も九月にレモンと蜂蜜の荷物が届いた。
「庭に今年も青レモンが実りました。お父さんは毎年青レモンが実ったら、あなたに送っていたね。青レモンを見たらそのことを思い出して、送ることにしました。」と、母の手紙が同封されていた。
私はレモンを一個選び、いつも以上に丁寧に「レモンティー」を作った。甘酸っぱい美味しさ。昨年五月に逝ってしまった父を思い、寂しくて切なくて、でもあったかい気持ちで胸がいっぱいになった。

 

(完)

 

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