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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

苦い蜂蜜

ぴょんた

 

小学校3年生だった。 
しばらく前から、父親の転勤で埼玉県秩父市に住んでいた。とにかく自然豊かな土地で、山も川も畑も何でもあった。 
学校でカイコについて学んだときは、先生に連れられて近くの養蚕場まで出かけ、隣の桑畑から桑の葉を取ってきてみんなでカイコに与えた。無数のカイコが一斉に桑の葉を食べるときのサワサワした音が子どもの耳にも心地よかった。 
薄暗い養蚕場のこげ茶と、桑の葉の深緑と、ふんわり白いカイコの織りなす幻想的な光景をいつまでも覚えている。 
養蚕場のおじさんは、子どもたちにカイコを桑の葉と一緒に一匹ずつ分けて、「クワバラ、クワバラ」という、言葉の由来なんかも話してくれた。 
蜂について学んだときは、自宅で養蜂をやっている、という同級生が本物の蜂の巣を教室に持ってきた。 
教科書に載っている、整然と連なる六角形のカラー写真と、魅力的な甘さの蜂蜜。休み時間にその同級生の周りには、あっという間に人だかりができた。 
当時はまだ、大勢の中へ入って行かれないような子どもだった。その壁の隙間から時折り見え隠れする黄色味がかった皿状のものを自分の席から遠目にうかがうしかなかった。 
しばらくすると、突然辺りが静かになり、蜂の巣を持ってきた子がこちらに向かってやって来た。無言のまま手を掴まれて、蜂の巣の前まで連れて行かれた。目前に立派な蜂の巣が輝いていた。 
だが、なんと輝きの中にくっきりとクレーターが刻まれていたのだ。その瞬間、生まれて初めて背中が冷たくなるのを感じた。その後の事は、覚えていない。 
「意地悪な子の家の蜂蜜は、きっと苦いんだ。」そう言い聞かせて、自分を保つ事で精一杯だった。 

それから長い年月が経った。小学生の息子が、スプーンに乗せた黄金色の蜂蜜を食べて「あっまーい。」と、叫んだ。 
あの日、蜂の巣と同じように、心にクレーターができた。あの子は、本当はもっと、蜂に刺されたぐらい痛かったのではないだろうか。甘い蜂蜜も、口の中で苦く広がっているのではないだろうか。

 

(完)

 

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