大阪のアン
高熱を出し、ベッドでひいひい言っていると、隣のおばさんが飛んできた。
「これはマラリアの症状だね。直ぐに入院しなきゃ。大ごとになったら、大変だよ。命を落とすことだってあるんだから」
そう言いながら、タクシーを手配してくれた。おばさんの面倒見のいいことと言ったらない。1年前に赴任して挨拶に訪れると、「困ったことがあったら、なんでも相談してね」と、なぜかハグしてくれた。多分、日本から数千キロも離れた東アフリカ・タンザニアまで遥々ボランティアとしてやって来てくれたことに感謝してのことだろう。
タクシーが来た。
おばさんも一緒に乗った。
「だって、途中で容体が急変したら、私がいると介抱できるでしょ」
病院ではおばさんの顔が利いて、直ぐに診察してもらえ、入院手続きもスムーズに済んだ。なんとも頼もしいおばさんだ。
「マラリアは体力勝負よ。栄養ある物を摂らないとだめよ。病院食だけじゃ、回復はおぼつかないわよ。明日も来るからね」
そう言って、おばさんは帰っていった。
翌日から、おばさんは卵や肉や魚の料理を届けてくれた。
「そうそう、私の実家で蜂蜜を作っているのよ。それでここに一瓶持ってきたからね。これを日に何度か舐めるといいよ」
なんとも気遣いの多いおばさんだ。
おばさんの家族の蜂蜜なのだろう。それも手付かずのをくれるのだから、気前のいいことと言ったらない。
「おばさん、隣の子供が羨ましそうにこっちを見ているよ」
「きっと蜂蜜を舐めたいのよ。時には舐めさせてあげてね」
蜂蜜となると、誰でも彼でもが買えるわけではない。それなりの値段である。
「ジナ・ラコ・ナーニ?」(名前は?)と訊くと、「ンゴマ」だと言う。小学生のようだ。早くよくなって、学校へ行ってもらいたい。私が舐める時は、ンゴマにもスプーン1杯を舐めさせた。
「ムゼー、アサンテ・サーナ」(旦那様、ありがとうございます)と、その度に言われた。ンゴマはそれから4,5日して退院した。とても素直な少年で、蜂蜜が私たちの仲を取り持ってくれていたのだ。おばさんと蜂蜜に感謝した。
(完)
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