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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

いたいのいたいの飛んでいけ

いずみ

 

「また怪我したの?もういい加減にして!」 
 こどもの頃、学校帰りに友人とふざけながら歩く道は幼心に楽しく、道草を食ってはよく怪我をして帰宅した。服は泥で汚れ、出かけに綺麗に結ってもらった髪には藁が刺さり、挙句膝や腕はいつも傷だらけだった。 
 だから母は玄関先で私を見つけるといつも目を怒らせ、その腕には毎日の習慣とばかりに救急セットが抱えられていた。 
 ある日、友人と帰宅していた私は自生している桑の木によじ登り、足を滑らせて高さ2mのところから転落した。それまで擦り傷なんかへっちゃらだったが、この時ばかりは右腕の関節が痛くてたまらずべそを掻きながら家で母にすがった。 
 救急へ駆け込んだ母は怒りと心配の狭間にいるかのような表情で顔を引きつらせていたが、私は痛みよりも自宅で怒られる事を危惧していた。普段温厚な父は場合によっては鬼のように怖い人だ。 
 病院から帰り骨折した右腕をぶら下げて大人しくしていると、会社帰りの父と年子の兄も交ざってダイニングテーブルに腰を落ち着けた。母が台所から湯気の立ち上るマグカップをお盆にのせてやってくる。 
 その時、揺らぐ湯気に乗ってほのかに甘くやわらかい香りが鼻腔をくすぐった。気持ちが優しくなるようなそんな香りだ。母はピンク色のカップにだけ更にたっぷりとはちみつを入れ、私はとろとろと輝いて流れる黄金色に釘付けとなった。なんてきれいな色なんだろう! 
 左手でかき混ぜて一口飲んでみる。口の中でとろりと広がる甘さに目がうるうるしてくる。 
 おいしい!はちみつっておいしい!本当においしい!生きていてよかった!! 
 ピンク色のカップを手渡され半泣き状態の娘を見た両親は声をそろえて言った。 
 「ばかだねぇ」 
 重なった声に全員の視線が交ざり合い、はちみつ湯を手にする家族が笑いあう。私にとってはちみつは家族の味だ。風邪を引いたとき、受験勉強のとき、団らんのひと時、たおやかな味はいつの時代も家族に元気を与えてくれる。

 

(完)

 

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