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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

私のハチミツの思い出

嶌田はるみ

 

 私が小学生だった頃、菜の花が満開になると、村の外れの一軒の農家に、毎年決まってミツバチのおじさんがやって来た。
 おじさんはその家の、葉たばこを乾燥する建物の軒先に、四角い箱を並べ、長い期間、滞在した。
 農繁期には雪国から出稼ぎの人が来て、ミツバチのおじさんも来て、りんご売りのトラックが週に一度来て、三橋三智也の、「呼んでいる、よんでいる・・・」、という唄を大音響で轟かせ、村中を走った。
 トラックがやって来ると、どこの家も、「おやざる」という大きなざるに、りんごをいっぱい買いに行った。
 そのトラックの後ろを、子供たちが追いかけて、最後に行き着く場所が、ミツバチのおじさんがいる家だった。
 その時期は、毎年村は賑やかになり、活気に溢れた。
 祖母や近所の人たちは、時々、ミツバチのおじさんからハチミツを買った。
 弟と私は、いつも、祖母にくっついておじさんのところへ行った。おじさんは私と弟を見つけると、「おう」と手をあげ、ニコニコした。
 祖母は行く度、酒が入っていた空の一升瓶に、ハチミツを入れてもらった。
 薄緑色の瓶に、ハチミツの金色の液体がくねくねと流れ落ち、みるみる一杯になる様は、不思議で、胸がわくわくした。
 家に帰ると祖母が湯を沸かし、湯飲み茶碗にそのハチミツを入れ、湯を注ぎ、ハチミツ 
 湯を作った。それを家族みんなで飲んだ。ハチミツ湯は甘い物がない時代、贅沢で貴重な、家族全員で揃って飲む、幸せな飲み物だった。
 もう一つ、私と弟の楽しみは、瓶に少し残っているハチミツを戸棚に見つけて、父が竹で作った手製の長い菜箸で瓶の中をつつき、わずかに菜箸に着いてくるハチミツをなめることだった。 
 ハチミツは真っ白で固く、瓶を逆さにしても流れ出ない。
 私たちは瓶の底を菜箸で力任せに突き、代わる代わる菜箸のハチミツを夢中になってなめた。
 うれしくて、ドキドキした秘密の味だった。もう、六十五年も昔のことである。
 「私のハチミツの思い出」は、遠い幼い日、故郷で出会ったかけがえのない、「懐かしい幸せ」である。

 

(完)

 

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