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ミツバチと共に90年――

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ミツバチと踊ろう

アカシアめばる

 

子供の頃、憧れていたのは仮面ライダーであり、野球選手であり、少林寺拳法だった。
悪を成敗し、弱小チームを優勝に導くピッチャーで4番の強打者。ヒーローになった自分は間違いなく世界の中心にいた。ところが、大人になるということは出来ることだけでなく、出来ないことを受け入れていく積み重ねだとコロニーでジタバタしながら学ぶうち、心の耐性も帯びていた。それでも未知のウイルスが蔓延し、世界がより個というものへ重心を移す中、コロニーの縁をグルグルと回っている自分は妙に焦り、何かを掴もうと通勤とリモートでヘトヘトになるのだ。それは去年の夏の終わりの頃。家族で軽井沢を訪れた。お義父さんが持っている別荘があり、年に何度か子供たちを連れていくことが父親として息子達にドヤ顔出来る最大のアピールポイントで、妻の目尻もやや下がる。方や子供たちは前夜から大はしゃぎのイベントとなっている。旧軽井沢の高級別荘地から少し離れた自然豊かな場所に築40年を過ぎた木造の建物がある。何度も修理を重ねているものの所々ガタがきていて、二層式の洗濯機は、和太鼓のような音を出し、玄関のタイルは剥がれているので、行く度にパズルゲームのように組み合わせなければいけない。だが、大きな窓からキラキラと光が注ぎ、空気も水も格別にうまい。その東京での生活には無い庭で6歳の息子が発見したのは、日本ミツバチだった。なぜ、それが日本ミツバチなのか分かったかというと、息子と一緒に図鑑で調べたからだ。庭の白い花の花粉を一生懸命集め、巣に持ち帰る姿を初めてじっくり観察した。結構ハチってかわいいじゃないか、純粋にそう思った。それにしても途方もない作業である。一生かけて生み出す蜂蜜が小さじ一杯と知って申し訳ないと思ったのと同時に、産地や製法のことをよく知りもせずパンに塗って食べていた自分が嫌になった。翌日、息子を連れて信州で有名な蜂蜜専門店に足を運んだ。そして、生の百花蜜を試食させていただいた。言葉が出なかった。甘いとか、コクがあるとか、鼻に抜ける香りが良いとか、そういう修飾が一切浮かばない、ただただ衝撃だけが体を走った。今まで口にしていた蜂蜜は何だったのか。そして、これが蜂蜜というものなのか。黄金色に輝く、とろっとした魔法のような食べ物。世界が個にシフトする中で、コロニーで育まれた協調性と知性を持った健気な生き物が生み出す優しい循環のおかげで出会えたのだ。子供の頃、憧れていたのは仮面ライダーであり、野球選手であり、少林寺拳法だった。そして今、憧れているのは養蜂家である。

 

(完)

 

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