森本 晋
家族でトルコに旅行した時のこと、イスタンブールでは奮発して旧市街の中心部にある高級ホテルに宿泊した。ゆったりとした寝室で長旅の疲れを癒した翌朝、少しひんやりとした爽やかな空気の中を食堂に向かう。そこで朝食に出てきたハチミツは、ハチの巣に入ったままの状態であった。ちょっとびっくりして、恐る恐る口にすると、その甘さにさらに驚かされた。
巣は別にモソモソするわけでもなく、食感はまったく気にならない。ピュアなハチミツの濃厚でありながらくどくない味。普段あまりハチミツを食べない子供たちも、大喜びで食べるのに夢中になっている。何と言っても見た目のインパクトが強いのが興味を引いているのだろう。すごいすごいとはしゃいでいる。
高級なホテルだけあって、ハチミツも上質のものが選ばれているのだと思う。そしてハチミツを載せたパンも、味わいがあるおいしいパンだった。その他の食材とも相まって大満足の朝ごはんになった。
その何年か後に、仕事で中央アジアのウズベキスタンに出張する機会があった。ホテルの朝食はビュッフェスタイルだった。パンに添えるものとして、コーナーに並んでいた中に、バターやジャムに加えてハチミツがあった。そこでは、ハチミツがぎっしりと入ったハチの巣が枠に取り付けられて置かれており、下から順にナイフでそぎ落として、自分の皿に乗せるようになっていた。巣の隔壁が切られるたびに、どろりとしたたるハチミツ。うまく受けきれずに、皿の縁から垂れ落ちそうになる。あわてて指でぬぐって、その指をなめると芳醇な味が口に広がり、本格的に食べ始める前から幸せな気分になった。
トルコで、家族で食べた朝ごはんのことを思い出しながら、ひとり近代的な食堂でハチミツを味わった。かなりの距離が離れた土地でありながら再会した巣入りのハチミツ。それぞれの豊かな風味の思い出がつながって、さらに世界が広がった気がした。
巣入りのハチミツはミツバチたちが蓄えてくれた時の状態そのままを見せてくれる。蜂たちの努力を横取りしているようで少し後ろめたい気にもなるが、それだけに感謝しつついただきたいとも思う。巣を潰して濾過されるものよりも、本来の形をとどめている方が自然の恵みがよく分かり、いいことだと感じる。
次に巣入りハチミツを味わう時、私は世界のどこにいて誰と過ごしているのだろう。
(完)
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