大阪のアン
「パパ、『ブタにミツ』って物語だけど、知ってる?」
幼稚園に通う息子が訊いてきた。
さ~て、聞いたことはないが、そう言ってしまったのでは親の権威に関わる。知っていると言って繕ったほうがよさそうだ。
「知ってるとも。ほら、ブタさんが誰かさんがミツを美味しそうに舐めているのを見て、羨ましくなった物語だろう」
「そうだよ。あれ、ぼくが書いたんだよ。パパはどうして中身まで知ってるの?」
「そりゃ、パパだからだよ」
「パパって、すごいんだね」
これで一応難局を乗り切ることができた。あとは息子の口から、ストーリがほとばしり出てくるのを待つばかりだ。
「物語はまだ先生のとこにあって、ぼくんとこにはないんだよ」
そう言って、息子はストーリーを身振り手振りで話し出した。
熊のプーさんが毎日蜂蜜を舐めているのを見ていたブタが、お願いして舐めさせてもらうと、なんとも美味しいこと。プーさんの一人占めにしておく手はないと、お願いしてミツの仲間に入れてもらったというものだ。
私の推理もまァー許容範囲だった。一応面目は保てた。
「物語はいつ先生から返してもらえるんだい? じっくりと読んでみたいね」
「先生はみんなの物語を読んで、感想を書いてくれるんだって。だからまだまだ時間かかると思うよ」
「そうか。じゃ楽しみにしていよう」
息子はミツが大好きだ。朝のトーストにはたっぷりとたらす。
「まあまあ、かけ過ぎですよ」
そう言う妻も、料理の隠し味だと言いながら、たっぷりと使っている。隠し味どころではない。ミツに助けられて、妻の料理はシェフ並みといっていいくらいだ。
そんな環境で育った息子にとって、ミツは身近な存在だ。それを材料に物語を書いてみたとは、見上げたものだ。
先生からストーリーが戻ってきたら、私と妻の両親を招いて、朗読会をやることにしようと決めた。5歳にして初めて書いたストーリーに、きっと息子のミツにたいする熱い思いがいっぱい詰まっているに違いない。
(完)
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