ミツオ君
私が幼い頃、実家は両親共稼ぎで決して裕福な家庭ではなかった。
父は真面目で実直な人柄だが地味で質素な風貌をして贅沢に無縁な人だった。そんな中、何故か父はローヤルゼリーを愛用し始めた。当時、ローヤルゼリーは高価で庶民には贅沢品だった。ただ父に言わせれば、蜂の中で女王蜂だけが食べることができる栄養価が高い特別食品とのこと。父は身体が弱かった私に食べさせてあげようと、苦しい家計から毎月定期購入し始めた。
でも私はローヤルゼリーが苦手だった。まだローヤルゼリーが世の中に知れ渡っておらず果たして本当に効果があるのか半信半疑だったうえ、子供の私にとっては酸っぱくて口に合わなかった。それに、家族を差し置いて私だけ高価なものを口にすることが何だか申し訳なく負い目を感じていた。その後しばらくすると、ローヤルゼリーは私ではなく父の愛用となった。
それ以来、私はローヤルゼリーに対してある種の苦手意識を抱くようになった。
一方、父は晩年までローヤルゼリーを愛用し続けた。お蔭で毎日元気に人生を謳歌し天寿を全うした。
亡父を思いだすと、当時の私がローヤルゼリーを口にしなかったことを今更ながら申し訳なく思っている。ただ我が家が五十年も前からローヤルゼリーに慣れ親しんでいたことを鑑みると、一歩先行くイケてる家庭だったのかもしれない。
今、ローヤルゼリーは当時に比べだいぶ安価になり贅沢品と言われなくなった。あの頃からずっと変わらず売り出されているところを見ると、その効用も当時と変わらないままなのだろう。むしろ、昔より味がずっとおいしくなって食べやすくなっているに違いない。
結局、ローヤルゼリーは未だに苦手であるが、父の優しい一面に触れた思い出の品となっている。
(完)
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