宙野えみ
蜜蜂はほとんどが雌である。雄は成長すると女王蜂とのランデブーという仕事があるが、比較的のんびりと遊んで暮らしているらしい。一方、雌は生後三~六日後から女王蜂や幼虫の世話係や掃除係となるそうだ。その後、成長に応じて体から蜜ろうを出して左官作業を行ったり、巣の警備を行ったり、蜜や花粉を集める仕事に従事する。
毎日、朝から夕方まで勤勉に働く。体重の半分くらいある重い蜜や花粉を体にくっつけて、巣まで運ぶのである。雨の日は巣の修理や掃除など、内勤を黙々と行っているという。
まるでサラリーマンみたいな、判で押したような自由のない生活である。気の向くままに好きなところに飛んで行って遊んだり、昼寝したり、花の香りを楽しんだりする余裕もないのではなかろうか。採取する蜜の量のノルマなどもあるのだろうか。
いっせいに蜜を採りにいく働き蜂に逆らって、皆と逆の方向に飛んでいく蜜蜂は一匹もいないのだろうか?
ところで、私は一昨年、二十年勤めた会社を辞め、東京から沖縄に引っ越した。
「えー、何で辞めちゃうの」
「辞めてどうするの」
同僚からはびっくりされた。一緒に仕事を頑張ってきた彼らを後目に去るのは心苦しかったが、自分の中では会社の仕事はやりつくした感があったのだ。仕事から得られる「蜜」を採りつくしたといってよいだろう。採れる蜜がなくなった以上、もう働き蜂の群れと一緒に行動する理由もなかった。
しかし、世の中にはまだ見ぬ「花畑」はたくさんある。楽しそうだが経験したことのない仕事、諦めていたものの、一度はやってみたかった仕事である。そうした花畑を求めて会社という「群れ」を飛び出した私は、一匹の逆走蜜蜂なのかもしれない。
暖かい沖縄に来て、しばらくはのんびり過ごしていた。コロナ禍で雇用状況は厳しく変化しつつあるが、誰かが作った会社ではない花畑を開拓している私にとっては、失業率や感染率などというものに心乱されることも、振り回されることもあまり無い。
ここ沖縄では自ら起業する人も多く、彼らを育てるおおらかな風土もあるようだ。私もマイペースで逆走していこうと思う。
(完)
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