ひと
母方の祖父母は養蜂を営んでいた。と言ってもメインは温暖な気候を活かしたみかんの栽培。その傍ら、ミツバチを飼育してみかんの花からはちみつを採蜜していたと記憶している。
琥珀のような艶と、さわやかな香り、とろりと濃厚な甘みが特徴のはちみつで、私は物心ついた頃からこのみかんの花のはちみつを食べて育ってきた。
お正月に帰省すると、お餅には砂糖醤油ではなくはちみつ醤油。
自宅でも、はちみつ入りのホットミルクに食パンを浸して朝食によく食べた。少食だった私でも、そうすると食パン1枚ぺろりと食べられたのだ。
トーストにバターとはちみつも鉄板。
はちみつに「かぼす」を絞って水で割った「かぼすジュース」も大好きな故郷の味。
でもいちばん贅沢な食べ方は、スプーンですくってそのまま舐めることかもしれない。
小学校の調理実習でホットケーキを作って初めて他のはちみつを食べたときは、味と香りの違いに驚いた。
ある程度の年齢になって自分で買い物をするようになってからは、国産のはちみつの値段にも驚いた。
一匹のミツバチが一生涯で集められるはちみつの量はスプーン1杯分という話も聞いたことがある。
ミツバチ、みかんの花、祖父母、たくさんの働き手を経てようやく私たちのもとへ届くはちみつ。
そんな貴重なものを子どもの頃から食べさせてもらっていたのだと、しみじみ有り難く思ったものだ。
はちみつを欲しがる私に、祖父はよく「子どもにはもったいねぇ!」と言った。その度に幼い頃の私は「じいちゃんのケチー」と内心思っていたけれど、確かになかなかの贅沢品だったわけだ。
それでも祖父は私にはちみつを食べさせてくれた。はちみつだけじゃない。海の幸、川の幸、山の幸、たくさんの美味しいものを私に教えてくれたのだ。
その一つひとつを、こうして今でも覚えている。幸せな記憶として。
おじいちゃん、勿体なくなんかなかったんだよきっと。おじいちゃんが私に与えてくれたものは。ありがとうね。
(完)
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