新井 敬子
痛い!視線が痛い。周りにいる人々はのけぞって眉を顰め私を見ている。
のどの一部がカラカラになって激しくせき込む私を!
毎年冬になると乾燥のせいなのか吐きそうになるくらい激しくせき込む。それもよりによって電車の中とか映画館とか電話中とかに起こる。神様は意地悪だ。一人でいる時ならいいのに決まって咳をしてはいけない状況で発作を起こさせる。
時節柄このような発作的せき込みは身の縮む思いで、どうか起きないでくれと願うばかりだ。
風邪が治っても咳だけが3か月は続く症状に病院に行くも、肺はきれいで結核やアレルギーではないとのこと。それで自分で調べた結果、咳喘息というものではないかという結論に辿り着いた。
何種類もの咳止めを試したがどれも効果はなかった。
ある日娘から「これを試してみて!」とスティック状のマヌカハニーをもらった。なんでもすごい殺菌力があるらしい。でも私は咳が止まるなんてみじんも信じてない。なぜなら何年も何度も何種類もいろんなことを試してもどれ一つ効果をみなかったから、そうたやすく信じることができなくなっていた。
発作が始まった時に、わずか5グラムのマヌカハニーを喉や気道にとどまらせるためにちびりちびりとなめていく。するといつもはゼイゼイと胸が動くはずがなんと静かである。ま・ま・まさか。そんなことって!幾度と裏切られてきた私はにわかには信じられなかった。
なのでせき込む予兆が来る度検証してみた。そしてちびりちびり作戦を試みてついに確信を持った。
マヌカハニーであの吐きそうな激しい咳が止まると!
以降私は常にバッグにスティックを入れている。もうこれで痛い視線を受けなくてすむのだ。ラボで作られるケミカルの薬ではなく自然の恵みによって私の恐怖は解放されたのだ。
たかがはちみつ、されどはちみつ。
陽にかざすときらきらと輝いて、滑らかな粘性をもってスプーンから滴り落ちる黄金のしずく。花の蜜をミツバチが集めるという気の遠くなるような時間と小さなミツバチの紡ぎだした宝物。美しくて美味しい珠玉の逸品。
改めてはちみつのすごさを知った。
(完)
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