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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

秘密の隠し味~ひそやかな羽音に耳を澄ませて

もこもこ

 

結婚のあいさつのため、初めて夫の実家を訪ねたときのこと。夫の母特製のポテトサラダとお稲荷さんが食卓に上りました。どちらも夫が子ども時分からの大好物とのこと。夫から、うちの母は料理自慢だと聞いていたので、楽しみです。ポテトサラダはしっとりしていて、芋が喉につかえることがありません。お稲荷さんはつやつやと輝いて、コクのある味でした。そして、どちらもほんのり甘い。しょっぱい味付けで育った私には新鮮でした。こうしたベーシックな料理ほど、各家庭において味が異なるものです。
「これは砂糖ですか?」私は、夫の好きな味を早く覚えたいと、夫の母に尋ねました。すると、彼女は「ちょっと違うかな」と、いたずらっぽく首をすくめます。隠し味を見極めようとしている私に、夫の父が、「ちょっとこっちおいで」と、裏庭へ連れていってくれたのです。耳を澄ませば、無数の蜜蜂のひそやかな羽音が聞こえてくるではありませんか。夫の父が定年退職を機に趣味で養蜂をはじめたとのことでした。蜜蜂をこわがる私に、夫の父は「蜜蜂は優しい虫だよ」と教えてくれました。蜜蜂は飼い主と性格が似るらしい、と横から夫が言います。夫の父は嬉しそうに照れ笑いしていました。
私は今まで、ハチミツは風邪を引いたときに使うくらいで、普段は戸棚の奥でひっそりと置き去りにしていました。ところが、夫の家では日頃から大活躍です。保湿性の高いハチミツは、ポテトサラダやお稲荷さんに使うと、しっとりした食感になりますし、何より、地味豊富な甘みが出ます。今では、私の子どもも、ハチミツを使ったこれらの料理が大好物。いくらでも食べられるようです。カレーに入れるとまろやかになるというのは、一般に知られていますが、他にも、無糖ヨーグルトや紅茶に落としていただくのが、最近の私のお気に入りです。白砂糖よりも健康と美容によいことはよく知られていますね。
また、食べるだけでなく、肌への効果もあるようです。例えば、夫の家には、高齢のおばあちゃんと犬がいるのですが、寝たきりで床ずれしたところへ塗布すると、効果があるようです。
ハチミツは、台所の奥で眠らせておくには、あまりにももったいない。毎日お世話になる秘密の隠し味にして常備薬です。

 

(完)

 

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