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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

幻の味

牧 ももこ

 

 子供の頃、実家の周囲は開墾が進まず、神社の裏手に出る小道も雑木林の中だった。
 雪が消えて暖かくなると、何本ものアカシアの大木から甘い匂いが漂い、たくさんの白い花が咲いているのが目に飛び込んできて、春の訪れを実感した。
 前の畑では、採り残しの野沢菜やきゅうり、ナスと次々に野菜の花が咲き、モンシロチョウやシジミチョウ、時にはアゲハ蝶が舞っている。トンボも多く飛んでいた。
 その中にハチもいた。家の軒先や壁に小さな巣を作り、忙しく飛び回っている。特に怖れることもなく、「ハチがいる」と普通に見ているほど当たり前の風景だった。太陽の熱気が残る洗濯物をたたむ時は、裏返してハチがいないかどうか確かめたものだ。
 ある日の午後、隣家で美味しそうなものを見た。記憶が定かでないけれど、居間だったから囲炉裏の上だと思う。
 黒い鉄フライパンの中で丸々とした白いものがたくさん炒られている。ハチの子だ。ジュウジュウと焼ける音とともに香ばしい匂いが広がっていく。プックリとふくれた真っ白なものが黄金色の油をまとってピカピカ光り、見るからに美味しそうだった。
 どうやら男衆が蜂の巣を採ってきたようで、酒のつまみにするらしい。炒る音と美味しそうな匂いと太ったハチの子だけが、鮮明に思い出される。欲しそうにじいっと見つめていたけれど、貰えたかどうか、残念ながらその肝心なところが記憶に残っていないのだ。
 もし食べたら、プチッとした歯触りととろりとした濃厚な味がするだろうな…。
 想像すると、懐かしくて幸せな思いになりながらも、もどかしく感じてしまう。

 もう半世紀も前の話だ。

 

(完)

 

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