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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

無題

塚本万紀子

 

 黄金色の塊の中へプラスチック製の白いスプーンを突っ込む。柔らかな一塊を厳かに口元へ運ぶ。甘さが口一杯に広がり、静かに喉奥に流れて行く。目をつぶる。微かに鼻腔をくすぐる植物の香り。これはアカシアか?至福の時。「ああ、幸せ」私の心が叫ぶ。もうひとさじ、否!1日ひとさじと決めているではないか!天使と悪魔の闘い。たっぷり載せてひとさじ、チビっと3さじ。毎朝のルーティン。今日はどちらが勝つのだろう。
 丘の上に養蜂場がある。入り口にひなびた木の看板。“集蜜が終わるまで殺虫剤禁止”の文字が微かだが読める。
 毎夏、蜜蜂が我が家の周りにやって来る。あの養蜂場から来たのか?こんな離れた住宅街の花々を狙ってか?
 若い時分入った洋品店。試着したニットのワンピースに潜んでいた蜂とにらめっこ。次の瞬間、くちびるに激痛。腫れ上がった口元を押さえ、トイレに駆け込み、アンモニアの代わりに塗った痛い思い出。 
 蜂は嫌いだ。頭をかかえ、声をあげて極力逃げ回る。その矛盾にさいなまれながら、奴等が汗水垂らして集めた戦利品を今朝も私は口へ運ぶ。

 

(完)

 

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