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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

マヌカの棚奥

十影ようこ

 

 あれは祖父の海外旅行土産でした。英語のラベルが異国の風情を醸し出していて、当時八歳の私は一目で魅せられてしまいました。「はちみつ」大好き少女だった私は、明日からパンに塗って食べられると思うと嬉しくてはやくも唾が湧いてきました。他にも異国の置き物や旅行先で撮った写真など、祖父のお土産&土産話はつきませんでしたが、子供にとっては何より食べ物。はちみつばかり見ていた私は、母がそっとそれを棚に仕舞い込んだのを見てびっくりしました。いつもなら、キッチンのお菓子類コーナーに、お砂糖やドライフルーツたちと一緒に並べるはちみつです。最近甘いものを食べすぎだから、我慢しろと言うメッセージ…?恐る恐る母に尋ねると、「これはマヌカハニーだから特別」との返事が。殺菌作用が強いので、風邪で喉を痛めたときの薬だと言うのです。「ちょっとお値段するんだから。じーじのお土産、大事に舐めるんだよ?……そいで、今日だけひと匙」そう言って母は、木のスプーンでたっぷり味見させてくれました。
 どろりと粘り気が強く、芳香が強く鼻に迫ってきました。私が目を丸くすると、母は自分もスプーンを取ってきて「どれどれ」と口に含みました。初めての不思議な感覚に、二人してうーんと唸りました。
 その日から、今まで何度もマヌカハニーのお世話になっています。風邪薬は飲まない、お医者には行かない、が原則の我が家において、一番出番が多い薬かもしれません。私にとって何より重要なのは、「おいしい」ということです。「子供も飲みやすい味」などという謳い文句の薬でさえ、どうしても吐き気を催す味覚持ちの私。はちみつを舐める瞬間は、本当に涙が出るほど嬉しいのです。合唱の練習の後や、風邪を引いた夜。喉が痛くなったときは一人でタッタッと棚へ駆けよります。毎日頑張る自分への特別なご褒美です。
 あの日にお土産を戴いてから、七年ほど経ちました。今でも、普通のはちみつとマヌカハニーは別々に置いてあります。トーストやミルクティーに垂らしてホッとする冬の朝、それは食料品店で購入したはちみつ。熱くヒリヒリ痛む喉へ、トロンと染みこませる、それはマヌカハニー。
 棚の奥に私たちがしまったのは、はちみつだけではありませんでした。貴重なものをさらに特別にする工夫。甘いお砂糖をより甘くする工夫。母の知恵と思い出の詰まったはちみつの戸棚は、一生忘れられない宝物です。

 

(完)

 

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