はちみつ家 > 蜂蜜エッセイ

ミツバチと共に90年――

信州須坂 鈴木養蜂場

はちみつ家

Suzuki Bee Keeping

サイトマップ RSSフィード
〒382-0082 長野県須坂市大字須坂222-3

 

蜂蜜エッセイ応募作品

ヒロシさんの蜂蜜

今林義和

 

 ヒロシさんは僕より1歳年下だが、僕の細君の姉のダンナだから、つまりは義兄である。3人姉妹の次女である細君の実家は国道からずっと離れた山の麓の農家で、庭には樹齢130年ほどの大きな八重桜がある。歩けばぎしぎしと床が鳴る古い屋敷もそれ以上の歴史があるらしい。ある時家の壁紙をはがしたら、明治時代の新聞紙面が貼ってあった言うから相当なものだ。ヒロシさんの家も近くの米農家だが、長男の彼は農業関連の共済組合に勤めていて最近定年退職をした。ヒロシさんは家の事情で大学には行けなかったが、学生時代の成績は良かったらしい。歳の割には落ち着いた話しぶりで浮ついたところがなく、物知り几帳面、それに世話好きで通っていて、親戚の中でも信頼が厚いのだった。何かあるとみなが「それはヒロシさんに訊くとよい」という具合だ。今年96歳になる細君の父、つまり僕の義父も何かとヒロシさんに頼りきりだ。遠方に住んでいるサラリーマンの僕は本当に感謝している。しかし、ヒロシさんは肝心の自分の家族からは少し冷たく疎まれていると感じることがある。ヒロシさんの何事にも細かすぎる性格が気に入らないらしい。そのヒロシさんから昨年瓶入りの自家製蜂蜜をもらった。ある日、家の近くの大木に群生している蜜蜂を発見して近所の養蜂家に訊くと、蜜蜂が新しい女王蜂のもと集団分家しているとのこと。早速几帳面で小まめなヒロシさんは、素人ながら思い立って見様見真似で養蜂箱を作り、蜂をその中に迎え入れたのだという。蜂の世話も几帳面に根気よく養蜂家の話を参考にするうちに次々と蜜蜂が増え、今では養蜂箱が8個になったというのだ。蜜蜂はやがて近くの山から美味しい蜜を集めてきた。その年は蜂蜜が瓶に6個とれたので、僕の家にもおすそ分けが回ってきたのだ。さらっとして癖がなくすごく味わい深い蜂蜜だ。スーパーマーケットで買ういつもの蜂蜜とは全く違う。市販のものより栄養もあるに違いない。まさに「奇跡の蜂蜜」だ。細君と僕は朝食のパンにつけたり、ヨーグルトの混ぜたりして少しずつ大切に消費したがやがて完食してしまった。そして今年も貰えるものと期待していたのだが、なんと今年は蜜蜂がスズメ蜂に襲われ、減少したので収穫できなかったとのこと。ヒロシさんはすまなさそうに笑った。そのとき、蜂同士の凄惨戦いがあることを初めて知った。ああ残念!そして養蜂とは大変な仕事だなと思った。だが仕事熱心なヒロシさんのことだ、対策をして今年はまたあの「奇跡の蜂蜜」を復活させるに違いない。ヒロシさんの温厚な顔の裏にその自信ありと僕は見た。ヒロシさんがんばれ!僕は心の中でエールを送った。記憶の中にあの味わい深い蜜の味が広がった。

 

(完)

 

蜂蜜エッセイ一覧 =>

 

蜂蜜エッセイ

応募要項 =>

 

ニホンミツバチの蜂蜜

はちみつ家メニュー

鈴木養蜂場 はちみつ家/通販・販売サイト

Copyright (C) 2011-2024 Suzuki Bee Keeping All Rights Reserved.