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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

魔女の記憶

かっぱえびちぇん

 

 子供の頃、祖母が魔女に見える瞬間があった。私が小学校から家に帰ってくると、祖母はいつも居間で座っていた。そして、自分の正面に置いたマグカップに、色んなものを入れて、沸騰したやかんのお湯を注ぎ、大きなスプーンでかき混ぜていた。絵本や映画に出てくる魔女も、たいてい自分の真ん前に置いた壺とか大鍋に、色んなものを入れて、あるいは不気味な液体を注ぎ、大きなヘラでかき混ぜている。魔女と同じことを祖母はしている。そう思っていた。祖母がマグカップに入れているものは、ショウガのすりおろしたやつと、自家製の梅干しと、梅干しと一緒に漬けてあるシソの葉と、ハチミツだった。体を温めるための飲み物を作っていた。これが魔女なら、乾燥させたヒキガエルと、満月の夜にしか咲かないという「何とかバナ」という花と、壁の棚に沢山並んでいる何かの瓶詰め各種と、煙が立ち上る緑色の液体を鍋に入れ、美女に飲ませて何かの呪いをかけるための妖しげな秘薬を作っている最中、というところだろう。そして、祖母が飲み物を作る工程で、一番魔女に見えるのは、ハチミツを入れている時だった。チューブ入りのものではなく、瓶入りのハチミツを使っていた。大きめの瓶に入った茶色の透き通った色のハチミツは、瓶を傾けると、ゆーっくりと動き、大きなスプーンですくうと、スプーンと、瓶の中のハチミツの表面がなかなか途切れず、しばらくの間、タラタラタラーと滴っていた。これが一番の、「魔女ポイント」だった。「老婆」が、「瓶」に入った、「不思議な液体」を、「大きな」スプーンですくう。これ、魔女もやってる、と思っていた。この他にも、「魔女ポイント」は多々あり、例えば、私が転んで膝を擦りむくと、祖母は居間に置いてあるアロエの葉を切り取った。葉に切れ目を入れると、透明なデロデロしたやつがでてきて、祖母はそれを擦りむいた部分に塗ってくれた。私が鼻水を垂らしていると、家の外の花壇に生えているドクダミの葉を2枚むしり取ってきて、葉をくるくると丸めて筒状にして、それを私の鼻穴につっこんだ。その治療のおかげで、傷が治ったのか、鼻水が止まったのかは覚えていない。ただ、魔女も祖母も共通していることは、色んな知恵を持っている、ということだ。祖母は、商売をしている家に嫁ぎ、仕事、お金、子育てなど色々な苦労をした結果、生き抜いていくための知恵が身に付いた、苦労人の魔女だった。

 

(完)

 

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