柴田睦郎
そろそろ引退も近い小児科医なので昔のことを書き残しておきたいと思う。今は手洗い、マスク、ソーシャルデイスタンスによる接触・飛沫感染予防ですっかりその流行を見なくなった夏かぜで口の中の粘膜に水泡ができて痛むヘルパンギーナ(手足口病も同類の疾患)というウイルス疾患の治療に悩んだことが有る。医者になりたての頃は紫色をした色素のピオクタニンを塗布することが行われていた。のちに色素のせいで粘膜が痛み潰瘍性の病変が生じる事がわかり以後ぱったりと使われなくなった。
次に使われていたのがホウ砂グリセリンとホウ砂ハチミツであった。ホウ酸の毒性が心配されるようになりある時から医薬品として一斉に使われなくなって以後それらの薬剤も目にしていない。それで局所の治療はあきらめて解熱剤の鎮痛作用を期待して時間を稼ぎ経口補液でしのぐという完全対症療法が有効な抗ウイルス薬やワクチンもないウイルス疾患の治療の現状である。
使用されなくなったホウ酸は昔は水溶液を洗眼や湿布の際に(ボール水と呼ばれていた)使用したほか皮膚疾患の基本的な局所治療薬としてホウ酸亜鉛華軟膏(通称ボチ)を広く使用していたのをよく覚えている。
ただしホウ酸抜きのグリセリンは浣腸液として今も重宝しているし医薬品や化粧品にも広く含有されている。ホウ酸抜きの亜鉛華軟膏は基本的な軟膏として現在でもその役割を失ってはいない。
さてもうひとつのホウ酸抜きのハチミツはどうであろうか?日本薬局方に一例として日本標準商品分類番号877149、薬効分類名 矯味剤、承認等ハチミツという記載をみつけた。私が最近書いたウイルス肺炎の総説に咳の家庭でのケアの項目に以下のように記載した。
せきへの蜂蜜の使用 一歳未満は禁止(乳児ボツリヌス症を考慮)。
それは蜂蜜にボツリヌス菌の毒素が混入している可能性を考えての事である。咳の対症療法として蜂蜜の効果は成人において二重盲検試験が行われてその有効性が確認されている
(完)
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