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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

真鍮のスプーン

今井 満

 

 蜂蜜の香りは、ねばくてほろ苦い。花の蜜を集めてけな気に働くミツバチの上前をはなるのは、かわいそうだと子供の頃は思っていた。
 むかし我が家の前には電車が走っていて、出戻ってきた伯母が電車道に面して駄菓子屋を始めた。そしてだれに勧められたのか、蜂蜜を取り扱いだしたので、いつしか店のなかに甘い香りがしみつく。学校から帰って伯母に声をかけると、真鍮のスプーンにすくってくれた。甘いものがあまりないころであり、おいしいと言うと、実家に子供を残してきた思いなのか、甥が代りだったようで顔をほころばせた。店はすでになく伯母もいないが、真鍮のスプーンをみると当時を思い出す。

 

(完)

 

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