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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

そうだに

秋谷 進

 

私は夏休みになると、母親が生まれ育った長野県の山奥に、電車を乗り継いで母親と妹の3人で行っていました。 
「いってきま~す!」 
祖母はいつも私と妹を、畑や山に連れていってくれました。私たちは2人とも祖母が大好きだったので、道中は最近あったことを、たくさんたくさん話したのを覚えています。祖母はいつも優しい笑顔で、頷いてくれていました。そして祖母もまた、私たちにたくさんの話をしてくれたのです。 
祖母が若い時代は、世の中には物がない時代でした。田んぼはあるので米がとれますし、畑で野菜は採れました。山に入れば柿や栗、アケビ、山芋などがとれました。しかし山奥は、たんぱく質が貴重でたまに捕れるイノシシや飼っている鶏、卵、川魚はかなり重宝されていたようです。あと忘れてはいけないのが、蜂の子。この山ではこんなものが採れる、あそこは危険だから入ってはいけないなど、色々教えてくれたので、散歩が大好きになったほどです。 
大体いつも優しい祖母でしたが、一つだけきつく怒られたことがあります。 
「食べ物は大事にしないといけないずら」 
これはもう口癖のようなものでしたが、米粒を一粒残らず食べないと、いつも怒られていたので、私と妹もだんだん覚えていきました。そして、祖母の笑顔が見たくて、 
「私たち兄妹も、食べ物は大事にしないといけないんでしょ」 
という言葉を言っていました。すると祖母は「そうだに」と、目を細めて笑顔で頷くのです。その顔が見たくて、私たちは食べ物を本当に大事にするようになりました。 
祖母が作る料理は、蜂の子やイナゴがよく出ました。祖母と一緒に乗山を駆け巡った私たちには、何よりのごちそうです。 

時が過ぎ、大人になった私にも子どもが生まれました。今は物があふれる時代になり、自分の子どもにも「食べ物は大事なんだよ」とは伝えていますが、ちゃんとは伝わっていないように思います。私が祖母のように、心からの言葉として伝えていないからなのかもしれません。きっと今は亡き祖母に愚痴れば、「そうだに」と言うでしょう。 
 私は蜂の子を見るたびに思い出すことがあります。 
 「栄養あるんだよ。しっかり噛んで味わって食べるずらよ」 

これは祖母が、私のことを思って言ってくれた言葉です。だから逆に、祖母が恋しくなると蜂の子を通販で取り寄せて食べたりもしています。蜂の子は、今も昔もとても優しい味がして、心を温めてくれるのです。

 

(完)

 

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