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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

今、生きているのは、蜂のおかげさま

堀越 秀香

 

 これは、息子が小学四年生の時の話です。その町のバス停には、木製のベンチがあり、屋根のついた風よけがあります。それは町の自慢のバス停で新品の頃は綺麗に塗られていたのでしょうがペンキが剥げて、所々木の表面が見えます。私は、息子と母に手作り「苺ジャム」を渡すためにバスを待ちました。息子は、甘えん坊でバス待ちをする間にも体をぴったりとつけていました。良く晴れて心地よく、二人で鼻歌を歌いながら時間を過ごしていました。すると突然、息子は、急に手を振りながら慌て始めました。
 「うわわ。蜂だ」
 息子は、自然豊かなその町で虫も怖がらずに触れることが出来ましたのに、蜂だけは怖がるのです。私は、蜂のことを何故、嫌うのかを知りたくなりました。
 「蜂のどこが嫌いなの?」
 息子は、蜂が自分から離れたことを確認し、話し始めました。
 「学校に戻る時間にいつも蜂が待ち伏せているんだ。だから、刺されないように急いで家に入るんだよ」
 子どもは臆病で、まだ知識が乏しく、様々な不安を抱えて生きています。持っている蜂の生態は「黒い色を怖がり、突然刺すことが多いので、頭を抱えて逃げると良い」という事だけです。
 大人として、子どもに伝えることはたくさんありますが、その学齢に合わせた知識をその都度教えていくということが必要です。安易に難しい話をして生意気な子どもと思われてもいけません。けれども、私は、子どもにあらゆることを伝える時には、当たり前に持つ知識と共に、「世の中にどう働いているか」を伝えたいと思っています。四葉探しをする時には、なぜ四つ葉になるかを考えます。
 「四葉探ししよう」
 と、息子は笑顔で座り込みました。大抵は三つ葉で、四枚の葉を持つそれを見つけることが出来ません。
 「四つ葉のクローバーも元は三つ葉なのよ。三枚の葉を人や動物に踏まれて、成長している間に傷がつくことで、ひとつの葉が二枚に分かれるという話を本で読んだわ」
 私は子どもに「自然に関わる中で今を生きている」ということを感じてほしいと思っています。分かる範囲で考えてくれれば良いと思っていますので、聞き流されているのかもしれません。それはそれで良いのです。親の話す内容をしっかりと覚えていなくても当然です。一年で365日も話している中で全てを覚えているわけはありません。
 私は、蜂についても嫌わないで欲しいと感じました。何故なら、毎日食べている作物は蜂が受粉することで存在し、私たちの口に入るのです。だからといって、強い農薬が蜂や作物、人を傷つけているという話は、その時の息子には難しいのです。
 「蜂がね。あなたを好きになるのはあなたの周りに良い香りがするからなのよ。受粉ってわかる?蜂の巣には蜂の家族が蜜を待っているの。必死で花を探しているのね」
 私は、バスを待ちながら息子に話します。
 「ぼくは、花ではないから蜜は出せないのに」
 息子は、それでも蜂を好きになることは出来ないとふてくされています。私は、この子にとって蜂が、どんなに大切なのかを伝えたいのでまだ話し続けます。
 「蜂は、蜜を探し、花粉を運んでくれて花が咲き、実がなり、作物になるのよ」
 「なるほどね」
 息子は、蜂がまだどこかにいないかとキョロキョロと探しました。すると、先の方をバスが走ってくるのが見えました。私は、鞄の中の「苺ジャム」を出して、
 「これも、蜂のおかげさま」
 と息子に見せました。
 その時、暗いバス停に光が注いで蜜がキラキラと光りました。

 

(完)

 

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