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蜂蜜エッセイ応募作品

友達の蜂蜜のど飴

七海

 

これは、新しい環境に慣れることに精いっぱいだった高校生活1回目の冬の思い出。 
 その日は、冬のお手本のように寒くて乾燥している日だった。 
 朝起きたときには、既に違和感があったが気づかないふりをしていた。けれど、学校が近づくにつれて引っかかりの存在感は増していった。私ののどは、季節の変わり目ということもあり、乾燥していた。それはもう、話す度に心配されるほどには。そして同じくらい私の心もひび割れていた。高校生になってもっとキラキラした、いわゆる青春が待っているのかと思いきや、待っていたのは鬱陶しいほどの課題、課題、課題の山。時々挟んでくるテストが私の心をしっかり干上がらせてくれた。積み重なる課題で、すでにオーバーキル状態の私にとって冬の寒さと、どう考えても体調を崩す前兆であるのどの痛みは堪えた。その日一日を、ただ早く過ぎてくれという不純な気持ち一心で乗り越えた私はそそくさと変える支度をしていた。いつも一緒に帰る友達と合流して、バス停でバスを待っている間、私は落ち着きなく咳払いを一つした。すると、一緒に帰っていた友達が 
 「のど痛いん?のど飴いる?今、100%蜂蜜のめっちゃ良いのど飴持ってるで。美味しくて私もよくたべるねんな~。ちょっと待ってな!」 
 と、おもむろにカバンをごそごそと探り出した。そして、太ったカバンからやっとの思いで取り出せた袋の開いた口から出した、鮮やかな黄色の丸が入った小袋を「はい!」と元気よく渡してくれた。私は宝石でも扱うように丁重に受け取った。まあ、その間に日本人特有の「別にいいよ。」、「いやいや、気にしないで、」、「本当に貰っていいの?」、「あげるよ。」のやり取りを一通り挟んだけれど。何はともあれ、いただいてしまったものは仕方ないとお礼を言いながら、潤いの「う」の字も無くなった私の口の中に、コロンとのど飴を送り込んだ。さすが蜂蜜ののど飴。優しく、甘く私の絶不調ののどを瞬く間に癒してくれた。でもきっとこれは、蜂蜜の優しさだけではないと思う。咳払い一つで私の体調が悪いと気づいてくれた友達の優しさも相乗されての効果だろう。高校入学後からずっと気張っていたなんだか肩の力もなんとなくほぐれた気がする。 
 その日の夜、ふと気づくとのどの痛みは跡形もなく消えていた。いつもはこのまま、体調不良からの学校に休む旨を伝える電話一直線のはずなのに。ズル休みだってできたかもしれないけれど、その日の私はなんとなくそういう気分にはならなかった。きっと普段食べない蜂蜜ののど飴を食べたせいだろう。

次の日、友達に再度お礼を言いに行ったら、半分以上袋の中に残っていたのど飴が、すべて無くなっていたのはまた別のお話。普通の飴じゃないんだから…。

この出来事から2年ほどたった今でも、あの日食べた蜂蜜ののど飴の味は忘れていない。冬になる度に思い出しては、喉が乾燥しているわけでもないのにスーパーに出向いて探してしまう。あの日、友達がどんな意図をもって私にのど飴をわけてくれたのかはわからない。ただ単に、冬への文句をぼやき続けていた私を見かねて渡してくれたのかもしれない。それでも、私は確かにその友達と蜂蜜ののど飴に救われた。

 そろそろ、また本格的な冬が来る。今年は私から蜂蜜ののど飴を渡そうか、などと考えるくらいには少し余裕が出来た、高校生活3回目の冬のある日。

 

(完)

 

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