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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

くちなし色の祈りを

沖郷 文律

 

 海を跨いで下宿なんかしていたら、家族と顔を合わせるのも大仕事だ。
おまけに、三日も顔を合わせようものなら確実に喧嘩になると知っていれば、用も無いのにわざわざ会いに行くはずもない。
正月と、盆と。
もう数回も会えば良い方だ。
 
 ……だから時たま、親の時間も等しく進んでいることを失念してしまう。
会うたびに増える母の白髪の割合だの、せりだしていく父の腹だのがあるから、かろうじて思い出しはするが……それがなかったら、おそらく自分の脳みそは、彼らを不老不死の妖怪とでも思っている。
 『私、去年手術したのよ』
そうでなければ、こんな言葉に動揺したりしないはずだ。

 健康食品に混じって、医者の処方が必要な薬を飲んでいるのは知っていた。
 でも、自分が見ていない間に何が起きているかなんて知りようがないじゃないか。
 「……あっそ。甘い物ばっかり食べてるからじゃないの」
 顔を見れば喧嘩する仲の人間の健康を気遣う……なんて、面白すぎる冗談だ。

 母の好きな食べ物は、菓子パン、ケーキにチョコレート。
 そんな有様だったから、落ち着いて考えれば当然の成り行きではあった。むしろ、よく今まで内臓が保ったものだ。
 「今は、はちみつヨーグルトしか甘いもの食べてないわ」と母が得意気に応えた。
 充分食べてるじゃないか。
 「普通のはちみつより健康に良いやつだからいいの」
 ……まあ、毎日チョコレートと菓子パンをおやつにしていた頃に比べれば、劇的な進歩には違いないが。
 呆れた雰囲気を察したのかGIとかいう値が低くてなんたらかんたら……と弁明するように言い募る母の話を聞き流して、小さな蜂蜜の瓶を手に取る。
 アカシアの蜜か。
 「へえ」
 普段見る蜂蜜よりも淡く明るい金色に輝くそれは、妙薬の名に相応しい不思議な特別感があった。

 次に帰るまで覚えていたら、土産に持って帰ってやろう。
 腰を抜かすくらいでっかい瓶で、とびっきり上等なアカシアの蜂蜜を。
 何か聞かれても『見た目が面白かったからちょうどいいと思って買った』とかなんとか適当言ってごまかせるような、インパクト満点のやつを。

 ……だって、口が裂けても言えやしない。
 「それくらいあれば半年は余裕だろ」なんて。

 

(完)

 

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