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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

ミツバチの記憶

藤平 佐知子

 

 5歳までカリフォルニアに住んでいた。三十五年経った現在、記憶に残っている出来事は、後日見返したアルバムの記録を自分の体験と繋ぎ合わせたに過ぎない。
 ミツバチの記憶を除いては、である。
 写真には残っていない、あのカラカラに空気の乾いた午後の車の中、私はミツバチを見つけた。後部座先に静かに眠るミツバチは小さく、美しかった。
 私は前に座る両親には何も告げず、じっとして動かないミツバチを恐る恐る手に乗せ、指先で撫でてみた。ミツバチは何の抵抗もしない。ピクリとも動かない。これが死?生命の力はどこへ?好奇心に駆られた幼い私は、執拗にミツバチを触り続けた。
 そろそろ自宅に到着するから、このミツバチはどうしよう?と考え、母の後ろ姿を見た。次の瞬間、指先に強烈な痛みが走った。ミツバチは最期の力を振り絞って、私の指先に針を刺したのだった。
 私は泣いた。指の痛みと、ミツバチへの申し訳無い気持ちと、猛烈な後悔。母が真っ青になって、針を抜こうと、縫い針で私の指先を指し続けた記憶。ミツバチの小さな命の記憶が、私の心にいつまでも刺さって抜けない。

 

(完)

 

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