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地名「蜂巣」と伝承「蜂の巣山」

渡辺碧水

 

 栃木県の北東部に位置する那須郡(現:大田原市)に「蜂巣」という地名がある。
 言い伝えによると、平安時代の一一五五(久壽二年)、狐狩りがおこなわれた時に大きな蜂の巣が発見されたことから、この地を「蜂之巣」と呼ぶようになったのが始まりとされる(栃木懸那須郡教育會編刊《執筆者:蓮実長》『那須郡誌』一九二四年十月)。
 この伝説に因むとされる「蜂の巣山」と題する伝承の記録もある(黒羽町編刊『歴史的風土のなかの黒羽の民話』一九九三年)。貴重な話なので、簡略化して紹介する。
 この辺りは、大治年間(一一二六~三一)の頃、那須篠原と呼ばれる果てしない萱野であった。那須地方を統領していた武将・須藤権守貞信がこの萱野に分け入ったとき、草やぶの中に大きな蜂が、蜘蛛の巣にかかってもがき苦しんでいた。あまり見たことがない、どことなく気品のある蜂であった。
 貞信は、思わず足を止め、目前で苦しんでいる蜂を哀れに思い、あらゆる生物が神や仏の恵みを受け共存していることに思いを馳せ、蜘蛛の巣から外して助けてやった。
 九死に一生を得た蜂は、喜びの涙をこぼし、翅を震わせながら大空に飛び立って行った。貞信は山の方に消えていく姿を眼で追っていた。
 その時、どこからどう現れたか気づかなかったのだが、気品のある老翁が貞信の眼前に立った。そして「どうぞ、私の館にお越しください」と誘った。
 怪訝な面持ちであったが、貞信は老翁の導きに従い、誘い込まれるように、緑が美しく匂う林の中の住居に入って行った。
 蜂も老翁も化身で、生き物を救うために、神仏が仮の姿で現れたのであった。「先ほどは誠にありがとうございました。虫けら同然の私をお助けくださいました」と、厚くお礼を述べ、貞信に弓矢一対を贈った。
 貞信は「先ほどの蜂は温泉大明神が世に顕れたお姿だったのか、あやうく殺すところであった。畏れ多く有り難いこと。そして神矢を賜ったことも、生き物を悩まし苦しめているものを、この矢で射止めよ、とのお告げであったのか」と思い、改めて神矢を頭上に捧げ、拝んだ。
 間もなく、貞信が巨大な悪狐を射止めたという話が伝えられたそうだ。
 稀有な地名「蜂巣」が消失しないで今も残るのは、こうした言い伝えを大切に継承してきたからであろう。

 

(完)

 

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